笹本稜平『偽装 越境捜査』(双葉社)

 三年前に新宿で起きた傷害致死事件の容疑で内偵していた大手金属加工機メーカーキザキテック社長の独り息子・木崎乙彦が、神奈川県のマンションの一室で殺害された。死体を発見したのは、内偵を進めていた警視庁捜査一課特命捜査二係の鷺沼友哉と井上拓海。そこへ金の臭いを嗅ぎつけた神奈川県警瀬谷警察署の不良刑事、宮野裕之から電話がかかってくる。警視庁と仲の悪い神奈川県警であるため、捜査情報は全く入ってこない。キザキテックは神奈川県警と太いパイプがあり、捜査はほとんど進んでいなかった。殺人は乙彦の祖父であり、キザキテックの独裁者でもある会長・木崎輝正の命によるものなのか。三好係長の号令のもと、鷺沼、井上、宮野、さらに元ヤクザでイタリアンレストランのオーナー・福富、井上の恋人である碑文谷署の山中彩花刑事といったいつものメンバーでタスクフォースを結成、事件の謎を追うこととなった。
 『小説推理』2013年11月号〜2014年11月号連載。加筆訂正のうえ、2015年4月、刊行。

 おなじみの「越境捜査」シリーズ第5作目。今回の敵は、あくどいやり方で会社を大きくしてきた世界的な大手金属加工メーカーの会長である。最初からフルメンバーで敵に立ち向かうのだが、会長の隠れた窓口役との交渉と関係者への尋問が中心であり、展開としてはやや地味。徐々に核心に近づくかと思ったら、舞台は香港に移り、意外な展開が待ち受けている。
 事件の真相は少々意外なところはあるが、鷺沼たちへの派手な妨害があるわけでもなく、ゆっくりとではあるが真相にすんなり辿り着いてしまい、少々拍子抜け。特に会長を追いつめるやり方は、会長側があまりにも無防備。リーダビリティはあるものの、読み終わってみると今まで程の手に汗握る攻防がない点に落胆してしまう。鷺沼もなんだかんだ文句を言いながらも宮野をすんなりとうけて入れている。勾配こそなだらかだが、結局は件坂しかない坂道なので玉が転がってゴールにたどり着いてしまうような、物足りなさが残るのだ。現実にあった「池袋駅構内大学生殺人事件」「金メダリストによる準強姦事件」を小説に組み込んだのは安易に感じた。
 シリーズも5冊目となると、ネタを考え出すのが辛いのかもしれない。今までの敵が大物過ぎた分、呆気なさ過ぎた。キャラクターだけで読ませる小説ではないので、もっと頑張ってほしいところである。作者も山岳小説と警察小説ばかりでなく、昔のようなハードボイルドや冒険小説も書いてほしいものだ。



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