鮎川哲也『死びとの座』(新潮文庫)

 都内のある公園。アベック向けのベンチが並ぶなかに、ナトリウム灯の光の加減で、座る者を死人のような顔色に見せる「死びとの座」があった。ある朝、そこで本当に死んでいる男が発見された。男は人気絶頂の歌手の「そっくりさん」で、いつの日か本物のスターになる日を夢みていた……。音楽をこよなく愛する作者が、シューベルトの<冬の旅>を基調低音に据えて描く長編本格推理。(粗筋紹介より引用)
 『週刊新潮』1982年10月21日号〜1983年5月12日号連載。1983年12月、新潮社より単行本刊行。1986年1月、文庫化。

 結果的に鮎川哲也最後の長編となった一作。最もご本人はそういうつもりは無かっただろう。『白樺荘事件』が出ていればなあ……。
 プロローグでZがAを殺害し、PとOがドライブするシーンが出てきて、作者は正体を追求することが物語の最終的な標的となる、と書いているが、意味深な書き方のわりに犯人を捜すのは当たり前のことなので、それほど効果があったとは思えない。伏線が張ってあるのは理解できるが、単行本にならないと読者は忘れているだろうし、まとめて読んだとしても必要性を感じない。ここに書いてあるのに気付かないのか、と読者を笑おうとしているに過ぎない。
 本編に入ると、非常に地味な展開。容疑者ではなく、容疑者のアリバイを偽証した人物のアリバイを破るというのはちょっと珍しいかもしれないが、アリバイトリックがつまらないので、面白さに欠ける。しかも警察が一度は決着を付けた後、アリバイを偽証した人物と被害者の恋人が事件の謎を追うというのも、鬼貫警部が出ているのに珍しい展開となるが、素人があっさりと事件の謎に肉薄するというのもどうか。通常なら警察が動機を調べる上で最初に捜査すべき内容だろう。この時点で完全に白けてしまった。  最後は鬼貫と丹那刑事が容疑者を追い詰めるのだが、疑問に思っていたのなら自分たちでさっさと捜査しろ、と言いたい。
 週刊誌連載には向かない鮎川を無理やり引っ張りだしたせいか、何とか何とか盛り上げようと、容疑者を出しては実は犯人ではないという無理な展開を続け、さらに素人がしゃしゃり出てなぜかトラベルミステリーみたいな旅先案内になったり、何とも涙ぐましい努力を続けているのが物哀しい。さらに一番目の事件のアリバイトリックがあまりにも小粒だし(警察もまずは調べそうなものだが)、二番目の事件に至ってはトリックすらない。
 はっきり言ってつまらない作品である。駄作といってもいい。




加藤元浩『捕まえたもん勝ち!2 量子人間(クォンタムマン)からの手紙』(講談社ノベルス)

 元アイドルの捜査一課刑事・七夕菊乃と、天才にして潰滅的な変人・アンコウこと深海安公。二人が挑むのは、密閉された倉庫や監視カメラの密林をすり抜けて殺人を犯す『量子人間』と……、警察官僚の権力争い!? FBIもお手上げの連続不可解殺人を阻止し、犯人を捕まえろ!(粗筋紹介より引用)
 2017年10月、書き下ろし刊行。

 『Q.E.D』でおなじみの作者による小説第二弾。晴れて警視庁捜査一課に配属されるとなったら、一部官僚からいちゃもんをつけられて叩きのめす、という武勇伝でスタートするが、そこは単なるおまけ。まあ、その後の警察官僚との争いの伏線といえば伏線だが。誰もいないはずの倉庫での殺人事件、元海兵隊員が警戒もせず後ろから射殺された事件、監視カメラだらけの超高級ホテル内での殺人、護衛の警官だらけの室内で防弾チョッキを着た人物が射殺、誰にでも怯えていた人物が室内で殺害された事件の謎を追う。
 あまりにも間抜けな警察官僚との争いといったコミカルな部分はあるものの、事件そのものは3つの密室殺人と、かなり派手。しかも予告状付の殺人で、犯人が誰かも想像つかないという展開。正直言って、予想つきませんでした。どちらかといえば、菊乃と紫崎課長とのアホな争いの方に気を取られていたのというのが本音。密室のほうだって、どうせなんか機械的なトリックを使ったんだろうと思って、大して気にもならなかった。最後の犯人にはアッと言ったけれど、後から思うとまず最初に疑わないと、という人物だった。使い古された手口なのに、ちょっと悔しい。
 『Q.E.D』や『C.M.B』とは違い、菊乃シリーズならではの内容とトリック、そして犯人。そのくせ、何かコミカルな展開。なんだかんだ、次も買ってしまいそう。




デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 残忍な手口で四人の女性を殺害したとして死刑判決を受けたダリアン・クレイから、しがない小説家のハリーに手紙が届く。死刑執行を目前にしたダリアンが事件の全貌を語る本の執筆を依頼してきたのだ。世間を震撼させた殺人鬼の告白本! ベストセラー間違いなし! だが刑務所に面会に赴いたハリーは思いもかけぬ条件を突きつけられ……アメリカで絶賛され日本でも年間ベストテンの第1位を独占した新時代のサスペンス!(粗筋紹介より引用)
 2010年発表。2011年3月、ハヤカワ・ポケット・ミステリより邦訳刊行。2013年1月、文庫化。

 作者のデビュー作で、アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)の最優秀新人賞の候補となった作品。年末の各ベストテンで1位を取っている。
 20年、様々なペンネームで小説を書いてきた二流小説家のハリー・ブロックに、連続殺人犯で死刑囚となったダリアン・クレイから手紙が届く。告白本の出版と引き換えに、手紙が届いた女性ファンを取材してポルノ小説を書いてほしいという条件を受ける。しかし、その女性ファンが次々に殺される。しかも、クレイと同様の手口で。担当弁護人であるキャロル・フロスキーがいうよに、彼は無罪なのか。
 単に死刑囚の生い立ちや残虐な手口などを読まされるのかと思ったら、意外な展開に驚き。主人公の自分語りが冗長だし、章ごとにはさまれるハリーの過去の小説の断片ははっきり言って不要。それだけ無駄が多いのに作品のテンポはよく、登場人物の描写も悪くないので、ついつい引き込まれてしまう。少なくとも出だしからは想像もできないわな、これは。本格ミステリファンからも評価されたのは分かる気がする。丁寧すぎる結末は、個人的には好き。
 いかにも“二流”という感じの主人公が秀逸。結局二流は二流なんだ、それでもファンはいるんだ、みたいな中途半端さがたまらない。ポルノ雑誌の相談コーナーを担当していた、というハリーの姿が作者とダブってきて、今まで苦労してきたんだ、それをぶつけるんだ、みたいな怨念も所々に出てきているのは、もう少し控えてほしかった気もするが。
 なるほど、これは年間ベストの1位を取ってもおかしくは無いな、と思わせる傑作。これがデビュー作というのだから、アメリカには色々な逸材が埋もれているものだ。




麻耶雄高『貴族探偵対女探偵』(集英社文庫)

 新米探偵・愛香は、親友の別荘で発生した殺人事件の現場で「貴族探偵」と遭遇。地道に捜査をする愛香などどこ吹く風で、貴族探偵は執事やメイドら使用人たちに推理を披露させる。愛香は探偵としての誇りをかけて、全てにおいて型破りの貴族探偵に果敢に挑む! 事件を解決できるのはどちらか。精緻なトリックとどんでん返しに満ちた5編を収録したディテクティブ・ミステリの傑作。(粗筋紹介より引用)

 大学を一年で中退し、名探偵と名高い師匠の元で4年半、弟子として勤めた高徳愛香は、癌で45歳の師匠を亡くしてから半年、探偵として必死に全国を駆けずり回った。疲れた愛香は、大学時代の親友である平野紗知に誘われ、彼女の山荘「ガスコン荘」へやってきた。ここの地下には、死体を投げ込むと浮かばないため隠滅できるという“鬼殺しの井戸”がある。大学院生である紗知のゼミの後輩たちも来ていたが、到着当日、紗知の一つ下の院生、笹部恭介が頭を殴られ殺されていた。別荘までの唯一の道である橋が事故で炎上しており、警察はしばらく来られない。愛香は現場に残された証拠から事件を推理する。犯人として名指ししたのは、今年ゼミに入った三年生の妙見千明の恋人で、愛香を“女探偵”と揶揄する髭面男だった。彼の名は別名、貴族探偵。「白きを見れば」。
 旧華族で、大手製薬会社の会長、玉村規明の長女・依子は複数の恋人と付き合っている。安房の人里離れた別荘に来たのは、依子の恋人、中妻尚樹と稲戸井遼一、遅れてやってきた長身で口髭の男、すなわち貴族探偵。そして依子の兄である豊、父・規明と後妻の示津子。そして赤ん坊の礼人と、ベビーシッターの寺原真由。真由は10ヶ月前に尚樹と別れた元恋人だった。その夜、稲戸井が首吊り死体で発見されるが、警察は簡単に偽装と見破った。そして稲戸井が余興の占いで使って手帳が無くなっていた。稲戸井が殺害された時刻に席を外していたのは、尚樹だけだった。依子は三年前の事件で知り合った高徳愛香を呼び出す。「色に出でにけり」。
 一時間前、教授会の内部データが盗まれた事件を解いた高徳愛香は、学内で貴族探偵に呼び止められる。彼はガールフレンドで准教授の韮山瞳が栽培に成功した、黄色く発光するキノコを見に来たのだ。ところがゼミ室で、博士課程一年生の大場和則が殺害された。色分けされたティーカップから事件の謎を解く。「むべ山風を」
 親友、平野紗知に誘われ、新潟の山間にある温泉旅館「浜梨館」に誘われた愛香。離れにある別館には、願い事をかなえるという座敷童子いづな様がいるのだが、湯が乏しいため、月に一度しか開かれない。インターネットでは隠れパワースポットとして知られている。ところが大手商社の役員の娘、下北香苗の恋人として貴族探偵も来ていた。そして、フラれて自殺した人気HPの管理者の女性の恋人としてインターネット上でたたかれた同じ名前もあった。そして儀式が行われた翌朝、客の一人が殺害されていた。「幣もとりあへず」。
 高知県の宿毛港から十数キロ離れたところにある、ウミガメが産卵のために大量に上陸する亀来島がある。愛香は、名無しの依頼人から通常の倍額の前金と切符が入った依頼書により、この島に来た。島の持ち主は、元伯爵で重工業関係の門閥として名高い具同家の当主、政次。具同家の別荘には玉村依子と貴族探偵もいた。到着から三日後、使用人の平田が殺害された。嵐で警察は来ることができない。「なほあまりある」。
 『小説すばる』2011〜2012年に掲載された4編に書下ろしを加え、2013年10月、集英社より単行本刊行。2016年9月、文庫化。

 あの『貴族探偵』の続編だが、今回は女探偵高徳愛香が全編で登場。貴族探偵と推理合戦を繰り広げる。もっとも、実際に推理するのは貴族探偵の使用人であることは、今回も変わらない。
 全編貴族探偵対女探偵、しかも愛香が貴族探偵を犯人と名指しし、貴族探偵(の使用人)が愛香の推理の見落とした部分と真犯人を指摘する。悉く愛香が貴族探偵に敗れるため、読んでいてだんだんつまらなくなってくるのは事実。多重解決ものだが、愛香の推理がちょっと抜けているのが読者にもわかってしまい、推理合戦としての面白さが削がれている。「白きを見れば」「色に出でにけり」あたりは、なぜ途中まで解決に辿り着きながら、最後の最後で真の解決に至る推理ができないのか、不思議なくらいである。
 ちょっと毛色が変わるのは「幣もとりあへず」。最初は誤植かと思ったが、複数の個所に亘っているため、誤植ではなかった。つまり、作者のある狙いがどうどうと示されているのだが、なぜこのトリックを使うのか、さっぱりわからないし、面白くもない。
 最後は書下ろし「なほあまりある」。まあ、読者のだれもが思っていた、ある意味予定調和な終わり方。
 最初の方は面白かったが、先に書いた通り、だんだん退屈になっていった。といって、このキャラクターだと長編は非常に難しい。正直言ってこのシリーズ、正体暴き以外はもう読まなくてもいいのではないかと思ってしまう。




石持浅海『賛美せよ、と成功は言った』(祥伝社 ノン・ノベル)

 武田小春は、十五年ぶりに再会したかつての親友・碓氷優佳とともに、予備校時代の仲良しグループが催した祝賀会に参加した。仲間の一人・湯村勝治が、ロボット開発事業で名誉ある賞を受賞したことを祝うためだった。出席者は恩師の真鍋宏典を筆頭に、主賓の湯村、湯村の妻の桜子を始め教え子が九名、総勢十名で宴は和やかに進行する。そんな中、出席者の一人・神山裕樹が突如ワインボトルで真鍋を殴り殺してしまう。旧友の蛮行に皆が動揺する中、優佳は神山の行動に“ある人物”の意志を感じ取る。小春が見守る中、優佳とその人物との息詰まる心理戦が始まった……。(粗筋紹介より引用)
 2017年10月、書き下ろし刊行。

 碓氷優佳シリーズ最新刊は、『わたしたちが少女と呼ばれていた頃』から4年ぶり。『わたしたちが少女と呼ばれていた頃』から15年後という設定であり、当時の登場人物が年齢を重ねて再登場する。ほとんどの登場人物は結婚しており、それは碓氷優佳も同様。色々と面倒なので、基本的には旧姓で通しているという設定である。
 当時の親友である上杉小春、現姓武田小春が語り手。今までの長編では犯人が語り手だったので、珍しい。作者によると、「仕掛ける側と切り崩す側の、穏やかで息詰まる駆け引き。それを立会人目線で描くと、どのように見えるのか」とのこと。なるほど、立会人目線では二人のやり取りがこう見えるのか、と思わせるものはあった。ただ、そのためには立会人が両者の思惑を知っている必要があるため、結局小春も事件の真相をある程度見抜いている、という結果になっている。その分、他の人物の間抜けさ、勘の悪さというのが際立ってしまい、読んでいて少々苛立ってしまった。事件の構図は中途でわかってしまうものであり、登場人物たちがいつ結論に辿り着くのか、イライラしながら読む結果となっているのは、作品に没頭することができず、興醒めしてしまう。これ以上長くするとダラダラしたものとなってしまうことから仕方がないだろうが、作品の短さも併せ、物足りなさを覚えたまま読み終わってしまったのは残念な事であった。
 せっかくのシリーズだけど、正直言って終わりにすべきじゃないかな、などと思ってしまったが、優佳の旦那の再登場だけは期待したい。




多島斗志之『症例A』(角川文庫)

 精神科医の榊は美貌の十七歳の少女・亜左美を患者として持つことになった。亜左美は敏感に周囲の人間関係を読み取り、治療スタッフの心理をズタズタに振りまわす。榊は「境界例」との疑いを強め、厳しい姿勢で対処しようと決めた。しかし、女性臨床心理士である広瀬は「解離性同一性障害(DID)」の可能性を指摘し、榊と対立する。一歩先も見えない暗闇の中、広瀬を通して衝撃の事実が知らされる……。正常と異常の境界とは、「治す」ということとはどういうことなのか? 七年の歳月をかけて、かつてない繊細さで描き出す、魂たちのささやき。(粗筋紹介より引用)
 2000年10月、角川書店より単行本刊行。2003年1月、文庫化。

 多島斗志之といえば冒険小説側の作家だったが、本作は多重人格を扱った心理サスペンス。二つの話が展開され、一つは精神科医の榊による亜左美を通したストーリー、そしてもう一つは首都国立博物館に勤める江馬遥子が、平安時代につくられたとして重要文化財に指定されている青銅の狛犬を贋作と指摘した父の友人である五十嵐潤吉を探す話である。
 亜左美の話には前任の沢村博士が自殺した謎、江馬の話には贋作なのかどうかといった謎などがあるものの、亜左美の障害がストーリーの重点に置かれており、基本的に会話と症状の解説が中心で進むものだから、地味といえば地味。もちろん素人にもわかりやすいように書かれているし、書き方自体も巧みだから惹きこまれるのは事実だが、内容が重すぎて、読むのに疲れる。そんな欠点さえ除けば、非常に優れたサスペンスである。
 さまざまな精神障害を描き切り、さらにどう付き合うべきか、と難題に真摯に付き合っているのは見事。最後はやや尻切れトンボになっている感もあるが、逆にこれもまた一つの物語の終わらせ方だろう、とも思う。下手なことを書いては蛇足に見えてくる。
 逆に江馬の話については、正直言って不要だったと思う。これがなくても、真相に辿り着かせる方法はいくらでもあったかと思う。誠実に書こうと江馬側の話にもページ数を費やしているため、亜左美の話がややぼけてしまったのは非常に残念である。
 解説でカウンセラーが「精神医療の現実がたんねんに調べられている」と書くぐらいだし、参考文献の数からみても、細かいところまで調べて物語を作り上げたのだろうと思う。思い入れが強すぎたのか、もう少し話を整理整頓できれば、と思ってしまう。傑作だが惜しい作品であった。




米澤穂信『追想五断章』(集英社文庫)

 大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語(リドルストーリー)」を探して欲しい、という依頼を受ける。調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかり――。五つの物語に秘められた真実とは? 春去りし後の人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。
 『小説すばる』2008年6月号〜12月号掲載。2009年8月、集英社より単行本刊行。2012年4月、文庫化。

 休学中の青年が、女性から父が昔書いた5本のリドル・ストーリーの短編を探す話。途中、そのリドル・ストーリーが挟まれ、父親が過去の未解決事件の最重要容疑者であったことを知り、リドル・ストーリーを探しあてて読むうちに過去の事件の真相を知るという話。リドル・ストーリーが、父親が別に残していた最後の一行を加えることで新しい角度に光を向けた格好になるという設定は巧い。この人はこういう作品も書けるのだと、改めて技巧派だと感じてしまった。過去の事件をロス疑惑っぽい事件にしなくてもとは思ったが。
 ただ、これが何とも地味。読んでいて盛り上がりがあるわけでもなく、淡々と話が進んで終わってしまうだけ。これが編集者からのリクエストだったというのだから仕方がない。おそらく、作者の技巧を楽しむ作品なのだろう。それでも、山場のない文章を読ませられるのは、非常に苦痛だった。
 主人公も含め、複数の家族の姿を描きたかったはず。私は渋めの作品も嫌いではないのだが、この人の作品はどうも肌に合わないというか。




笹本稜平『孤軍 越境捜査』(双葉社)

 警視庁捜査一課特命捜査対策室特命捜査第二係の鷺沼友哉は帰り道、尾行されていることに気付いた。もしかして監察か。ここ最近は部下の井上拓海と、六年前に大田区で起きた強盗殺人事件を追っていた。独り暮らしの老人が殺され、財布や預金通帳等が盗まれた事件である。しかし鷺沼らが近所から聞いたのは、数億円の箪笥預金があったらしいということ。一人娘にはアリバイがあったが、怪しいところがある。一人娘は五年前に離婚し、幼馴染みだった村田政孝と再婚していた。村田は何と、今年の春に着任した首席監察官だった。六年前の捜査本部は、不自然な形で解散されていた。三好係長の指示の元、村田の周辺を追う鷺沼たちだったが、村田の妨害の手が迫ってきた。金の臭いを嗅ぎつけた神奈川県警瀬谷警察署の不良刑事、宮野裕之や元ヤクザでイタリアンレストランのオーナー・福富、井上の恋人である碑文谷署の山中彩花刑事も巻き込み、鷺沼たちは事件の真相を追う。警察をやめさせられるかもしれないという時間との戦いの中で。
 『小説推理』2016年1月号〜2017年2月号連載。加筆訂正のうえ、2017年9月、刊行。

 「越境捜査」シリーズ第6作。今回は首席監察官たちとの戦い。またまた警察官僚トップグループと向き合うという展開だが、相手側が妨害するわりには鷺沼の部屋を見張らないとか、何となく間が抜けていると思わせるのは毎度のこと。どこで彼らが集まり、どこで作戦を立てているかなんて、尾行すればわかることだし、こっそり鷺沼の部屋に盗聴器ぐらい仕掛けられないものかと思ってしまう。
 今回は首席監察官とその周辺たちを追うことになるのだが、過去に色々便宜を図ってもらったとはいえ、強盗殺人事件についてここまで不自然に捜査を止めさせられることができるのかも疑問。自分にとばっちりが来ないよう、何らかの対策ぐらい立てそうなものだが。
 このシリーズは、鷺沼たちの相手側がどうも間抜けに見えるのが欠点。もちろん相手が完璧だったら、吹けば飛ぶような鷺沼たちの立場だったらあっという間にどこかへ飛ばされたり消されたりするだろうから、作者としては仕方のないことなのだろうが、それにしてももう少しうまいやり方は無いのだろうか。
 まあ、鷺沼と宮野のやり取りは読んでいて楽しいし、最後に一発大逆転というのもおなじみのパターンながら読者を満足させるやり方である。今回は最後にスッキリした終わりかったので、読後の感想としては満足。不満点は多々あるが、そういうものだと思ってあきらめて読めば、楽しめるというものだ。



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