東野圭吾『名探偵の呪縛』(講談社文庫)

 図書館を訪れた「私」は、いつの間にか別世界に迷い込み、探偵天下一になっていた。次々起こる怪事件。だが何かがおかしい。じつはそこは、「本格推理」という概念の存在しない街だったのだ。この街を作った者の正体は?そして街にかけられた呪いとは何なのか。『名探偵の掟』の主人公が長編で再登場。(粗筋紹介より引用)

 「本格」について考えさせられる。『名探偵の掟』について、あまりにも色々な、そして作者の意図を理解していない勝手な評論が出回ったため、あえて「天下一名探偵」を使ったこの長編を書いたと思われる。しかし、舞台設定や事件に無理が感じられるので、★★☆。しかし、「本格」とはこんな風にしか書くことのできない舞台になってしまったのだろうか?




宮部みゆき『蒲生邸事件』(毎日新聞社)

 この国はいちど滅びるのだ―長文の遺書を残し、陸軍大将・蒲生憲之が自決を遂げたその日、時の扉は開かれた。雪の降りしきる帝都へ、軍靴の音が響く二・二六事件のただなかへ、ひそかに降り立った時間旅行者。なぜ彼は"この場所"へ現れたのか。歴史を変えることはできるのか。戦争への道を転がり始めた"運命の4日間"を舞台に展開する、極上の宮部ミステリー。(粗筋紹介より引用)

 事件は起こるが、これはミステリではない(『スキップ』をミステリに入れる人から見ればミステリかも知れない)。しかし、最後は感動させられる成長物語であると思うので★★★★。しかし、超能力者を平然と出す手法はこの作品を最後にしてほしい。こういう手を使わなくても、いい作品を書ける作者なのだから、たまにはストレートで勝負してほしい、ついでに言えば、そろそろミステリでも勝負してほしい。




芦辺拓『時の誘拐』(立風書房)

 ハイテクを駆使した現代の少女誘拐と、〈もう一つの警視庁〉大阪警視庁を揺るがした半世紀前の連続絞殺魔、テレビ黎明期の事件、さらにはそれらをつなぐ密室トリックの鎖。名探偵森江春策が活躍するシリーズ3作目。(粗筋紹介より引用)

 意外と面白かった。ハイテク(と言うほどではない)を駆使した現代の少女誘拐に、戦後の「大阪市警視庁」をからませたのはなかなか上手いが、前半にいろいろと詰め込みすぎたせいか、後半に割り切れなさとあっけなさが残る。そのわりにラストがぐずついているので、もう少し鮮やかに、切れ味よくしてほしい。中身を交通整理すればよかったのにと思いながら★★★。映画などの古い作品の蘊蓄をちらっと見せる手法は、好き嫌いが分かれるところだけれど、個人的には?。どうせなら、大藪春彦が銃と車にとことんこだわったように映画等にこだわったミステリを書いてほしい。




近藤史恵『スタバトマーテル』(中央公論社)

 キリスト教聖歌のひとつ、スタバトマーテル。十字架の下に立つ聖母マリアの嘆きを歌った聖歌。声楽を志すヒロイン・りり子と版画家・滝本大地との出会いが惨劇を生んだ。芸術大学を舞台に繰り広げられる愛のミステリー。(粗筋紹介より引用)

 個人的には『ガーデン』より好み。男にとって滅茶苦茶怖いラストだが(ちなみに★★★)。




近藤史恵『ガーデン』(東京創元社)

失踪した少女を追い、探偵は狂気の庭に足を踏み入れる…。小指のないまま温室に居座り続ける少女。「好きな人がいる、だから殺さねばならない」という彼女の呟きが意味するのは? 鮎川賞作家が、満を持して放つ会心作。(粗筋紹介より引用)

 今頃読んだ。出てくる人物が皆退廃的で、異世界の話にしか見えないのは作者の狙いなのか、それとも私の読み方が悪いのか。まあまあ面白かったが、登場人物の誰にも感情移入できなかったので★★☆。




鮎川哲也編『本格推理(8)』(光文社文庫)

 やっと読んだ。ここまで来るとトリックのパターンが似通ってくるのはしょうがないのかね。作品よりも、最後の黒輪土風の名前の謎解きの方がずっと面白い。もうちょい作品を厳選した方がいいと思いつつ★☆。




釣巻礼公『蛹たちは校庭で 名門石清水中学将棋部殺人事件』(出版芸術社)

 中学生―大人と子供の間羽化を待つ蛹。小説現代推理新人賞作家・釣巻礼公が、今まで誰にも書かれなかった思春期の神秘を描く本格推理長編第一作!名門・岩清水中学の将棋部部室で副部長の小雪が殺された。死体の両耳は無惨にも切りとられていた。小雪が残した詰め将棋に隠されたメッセージを手掛かりに、ノホホン少女・九十九桂が事件に挑む。しかし、またしても女子部員が第二の犠牲者に。今度は舌を切りとられて…。彼女には『援助交際』の噂があった。やがて、犯人の魔の手は桂にも襲いかかる。大人と子供の間の『蛹』の季節を生きる中学生。成長、いじめ、自殺そして援助交際といった、様々な問題に不安と戸惑いを感じながらも彼等は「負けるもんか」と事件に立ち向かう。(粗筋紹介より引用)

 副題だけで買った釣巻礼公に騙される。この作者は将棋のことを何もわかっちゃいない。調査不足も多いし、章題の意味づけも強引だし、中に出てくる詰め将棋(というのも笑っちゃうが)もこじつけでしかない。はっきり言えば、事件に将棋を搦める必然性は全くない。要するに、羽生ブームに便乗しただけの作品と思うので、厳しく★。ちなみに、「詰め将棋大賞」は存在しないし、《煙の中の魔法陣》などという詰め将棋は99.99999%実現不可能。