飯田譲治+梓河人『Gift』(角川書店)

 そう、これが俺のおまえへの最高のギフトなんだ。−−失われた過去の記憶のかけらを探し、記憶喪失の届け屋・早坂由紀夫は東京の街をクールに駆け抜ける。彼の過去には、どんな秘密が隠されているのか?(粗筋紹介より引用)

 ドラマを見ていない分、純粋に読むことができた。やっぱり飯田譲治は面白い。登場人物の設定といい、舞台といい、どうやって考えつくんだろう。単純なノベライズと思わない方がいいよ、これは。それでもどことなく映像化の名残が文章に残っているのは残念だけれども。★★★☆。




奥泉光『プラトン学園』(講談社)

 日本海に浮かぶ小島、象島。大学を出たばかりの青年木苺淳一は、かの地の私立プラトン学園に、新任の英語教師として赴任した…崖から"転落死"した前任者の代わりとして…。「面白くなければ小説ではない」と言い切る著者が放つ、会心の長篇小説。クリックから始まる震撼のサイコ・ミステリ。(粗筋紹介より引用)

 これ、一体何をやりたかったんでしょうね。パニックのどん底に落ちたのは読者でなく作者じゃないんだろうか。初めから最後まで破綻しっ放し。作者、これを「会心」と思っているのか? 最後は収拾付かないまま終わっているし。新聞連載だが、読者は怒るだろうなあ、これじゃ。☆。




中町信『十四年目の復讐』(講談社ノベルス)

 中学校時代の"事件"に係わったメンバーたちに突然送りつけられた脅迫状。すべての事件の加担者に死の制裁を予告するものだった。そして次々と不可能状況による殺人がくり返された。密室、アリバイ、不可解なメッセージ―ちりばめられた犯人の狡智なトリックに二組の探偵が挑む!中町ミステリの最高峰。(粗筋紹介より引用)

 何となく読んでいるうちに終わったという感じ。まずダイイングメッセージ(DMが本格推理の最大のダイゴ味かなあ、中町先生)がつまらない。そして最大の難点は遺書。いくらなんでもあの解釈は無理がありすぎ。この事件、わざわざ素人探偵が出てくるほどのものでもないでしょう。★。




帚木蓬生『臓器農場』(新潮文庫)

 新任看護婦の規子が偶然、耳にした言葉は「無脳症児」―。病院の「特別病棟」で密かに進行していた、恐るべき計画とは何か?真相を追う規子の周囲に、忍び寄る魔の手…。医療技術の最先端「臓器移植」をテーマに、医学の狂気と人間の心に潜む"闇"を描いた、サスペンス長編。現役医師としてのヒューマンな視線、山本周五郎賞作家の脂の乗り切った筆致が冴える、感動の名作。(粗筋紹介より引用)

 「臓器移植」をテーマにしたヒューマン・ミステリ。ここでメインとなるのは「無脳症児」。その名の通り、生まれてくるときに「脳」が無い新生児である。通常だとレントゲン等でわかるので妊娠数ヶ月で堕胎するし、もし生まれたとしても「脳」がないのだから生き続けることは難しい。主人公の看護婦が偶然「無脳症児」を耳にし、その真相を探ろうとすると協力者である医者、友人である看護婦が死に、そして主人公にも魔の手が迫る。
 多分「臓器移植」と「無脳児症」、そしてタイトルの「臓器農場」から“真相”は簡単にわかると思う。もちろん“真相”はあくまで題材であり、それを取り巻く人間模様と医学の狂気を主眼とした作品であり、最後の方がドタバタしたのがやや難であるが、面白い作品であった(★★★☆)。ただ、ここからは個人的な意見であるが、この“真相”、私は悪いこととは思えないのである(もちろん、法律にはふれるかもしれないが)。動物だって、免疫のためなら病気にかかっている自分の仲間を食べてしまうんだよ。どんな生物にだって生きる権利があるとは思うけれど、どうせ生き続けるのが難しいなら、他の人に役立てた方がいいんじゃない。




飯嶋和一『神無き月十番目の夜』(河出書房新社)

 常陸の山里、小生瀬の地へ急派された大藤嘉衛門は、悪い夢を見ているようだった。強烈な血の臭い、人影のない宿場―やがて「サンリン」と呼ばれる場から、老人、赤子にいたる骸三百余が見つかる。一体、この聖なる空間に何がおこったのか…。時は江戸初頭、古文書に数行記されたまま、歴史から葬り去られた事件の"真実"とは。(粗筋紹介より引用)

 舞台は徳川家康が関ヶ原の戦いで勝利し、征夷大将軍になる前の1602年。場所は常陸国の北にある山里の村、小生瀬。そこで村の人がほとんど虐殺されたその真実とは……といった時代小説。本屋で「第二の京極か?」なんて書かれていたので思わず手に取ってみたが、少なくともミステリではない。
 戦国の時代から江戸の封建身分社会制度の時代へと移り変わる狭間での、一つの農村の物語である。といっても、この村の農民は江戸時代の完全分業制とは違い、戦があれば農民から兵民に切り替わり、それがために年貢も兵役の分緩やかであった。しかし、完全支配による平和社会にはそんな存在は無用。当然彼らにも決まり通りの、生かさず殺さずといった年貢の取り立てが押し寄せてくる。見方によっては時代へ抵抗した者たちのドラマとも取れるし、自由を奪われる事への最後のあがきにも取れる。設定は面白いのだが、訴えてくるものは少ない。構成力は買うんだけれども……といったところか。★★★。