北野安騎夫『グランド・ゼロ』(トクマ・ノベルズ)


 無気力・無感動・無反応…。謎のウイルスIDVに感染した者に共通した症状はゾンビー・シンドロームと呼ばれ、全世界的規模で蔓延しつつあった。人類の遺伝子に潜む"神話"を破壊せんとするこのウイルスへの対抗策を握るのは、北海道U市での生物災害を生き延びた双子の姉妹、アスカとハルカだけである…。これは、遺伝子の人類に対する逆襲なのか?物語は十三年前同様、U市の『爆心地』に収束する。(粗筋紹介より引用)

 ありがちの設定はまだ許せるけれど、何なんだこの終わり方は。これだけ一癖も二癖もある人物がそろっているのに、結末が安易すぎる。新種のウィルスが話の核なのに、使われ方がもう一つ。大風呂敷は、正しく畳んでほしい。いかにも劇画原作出身が書いたような作品。リイド社っぽいや、★。




藤木稟『陀吉尼の紡ぐ糸』(トクマ・ノベルズ)


 昭和九年浅草。沼田平助は紀州犬の散歩で、吉原の弁財天にひきずられるように入った。本堂と稲荷祠の間の路地を抜けた。右手には「触れずの銀杏」という神隠しの因縁がまつわる銀杏の古木がある。と、足元にぐったりした老人が座っている。が、どこか変だ。顔がこちらを向いているのに、同時に背中もこちらを向いている。つまり顔が裏表逆さまについているのだ。老人の手がゆらり動き、手招く。蒼白になって、参道を駆け抜けた沼田の背中に甲高い獣の遠吠えが響いた。驚愕の異界への招待。(粗筋紹介より引用)

 舞台設定こそ文献に頼りすぎて、自分の世界へと消化し切れていないところがあるが、それ以後の物語は実に魅力的。「異界」をキーワードにしたこのミステリは、京極の作風を借りながらも京極よりミステリ味が強い。もっとも謎解きに関しては「子供騙し」と言われてもしょうがないのだが。★★★★。




鈴木光司『ループ』(角川書店)

闘え。武器は、肉体と意志の力―全人類がガン化するとき、アメリカの大地に神は舞い降りた。激しい光に、否応もなく魂をゆさぶられるかつてこのような物語が、あっただろうか。「すべての答えは、ここにある」。(粗筋紹介より引用)

 「リング」「らせん」がこのような話に昇華するとは夢にも思わなかった。全ての謎が解き明かされたようで、実は解き明かされていない気もするのだが、とにかく感動の一言。鈴木光司、さらなるブレイクの予感。さあ、目指せ、直木賞(笑)。今年初の★★★★★。




積木鏡介『歪んだ創世記』(講談社ノベルス 第6回メフィスト賞)

 目が覚めると斧を持って記憶を失っている主人公。主人公の前のベッドの下に隠れていて、やはり記憶を失っていた女。自分たちが何者であるかを捜し出す内に見つけた老夫婦とお手伝いの惨殺死体。ところが疲れて一眠りした主人公たちを起こすノックの音。それは殺されたはずのお手伝い。そして階下にはやはり殺されたはずの老夫婦がにこやかに朝食を取っている。これは一体どういう訳か……。
 ここまではとっても面白い。私好みの不可能趣味。殺されたはずの3人がにこやかに朝食を取る。さあ、これはいったいどんなトリックなのかと期待させたところで出てきた×××。はい、ここでこの小説は終わりです。この時点でこの小説はミステリであることを放棄しました。はっきり言って滅茶苦茶です。別に作者がどのような手法を取ろうと勝手ですが、これは反則以前の問題です。一体続きがどのようになっているかはエチケットとして書きませんが、よっぽど誉めるか滅茶苦茶怒るかどちらかでしょう。もっとも、どこを評価すればいいのかさっぱりわからないほどの反則技であることだけを言っておきます。せめてT先生の作品をもう一度読み返してほしいですね、☆。




小森健太朗『眠れぬイヴの夢』(トクマ・ノベルズ)

 小森健太朗が翻訳した『神の子の密室』(K社)は復活したとされるイエス・キリストの奇蹟の真相に迫った歴史ミステリの一種である。この本に続編が存在した。キリスト教信徒の猛反発必死とされる続編『あばかれたイエス』の出版権を巡ってK社、T書店が熾烈な争いを繰り広げる。その中に壮神社の女性編集者も参加しようとするが、関係者が次々と殺害されていく。犯人は誰か、そして涜神的なその続編の内容とは……。
 実在の人物を登場したり、自分の著作を出したりする「メタフィクション」の手法は別に構わないのだけれども、肝心の『あばかれたイエス』にある「涜神的な内容」の方がミエミエ。これでは読者は納得できない。どうせならもっとショッキングな内容にしてほしい。
 作品の主眼もよくわからない。『あばかれたイエス』が主軸なのか、それとも女性編集者が主軸なのかがよくわからないのだ。そんなこんなで登場人物が勝手に動いている間に推理もなくいつの間にか事件は終わる。うーん、わざわざミステリにする必要があったのだろうか。本が薄いのは嬉しいが、中身も薄いとちょっと考える。才能のある作家なのだからもっと頑張ってほしい。★。




清涼院流水『エル 全日本じゃんけんトーナメント』(幻冬舎ノベルス)

 副題にあるとおり、全日本じゃんけんトーナメントに参加した木村彰一の視点を奇数章(ここでは奇数回選だが)に、主催者である「L」の視点を偶数章(偶数回選)に配置し、決勝までの戦いの表と裏の舞台が描かれている。
 いままでよくこんなばかばかしい設定を小説にしなかったなと驚いていたが、後書きを読むとやはり同様の設定の漫画があるらしい。ただ、その展開といい、論理(こじつけか?)といい、今までの清涼院からすればあっさりと読めるだろう。ただ、それだけの作品。トーナメントにもう少し謎を絡めればもっと面白くなっただろうにとちょっと残念である。ただ、登場人物の名前の付け方にはかなり疑問が残る。というより不愉快か。また、いくら同一世界だからといって、あまり読者がニヤリとしない楽屋落ち同然の登場人物は出さないでほしい。★★。