斎藤栄『卍の女』(トクマ・ノベルズ)

 軽井沢にある「こころ探偵事務所」の江戸川匡太郎探偵長のもとに、金亀大師として親しまれている横浜の古刹・総得寺の貫首の長女・花女から、行方がわからなくなった寺宝を探し出してほしいという依頼がきた。事の真相を解明した江戸川は花女の信頼を得、彼女の妹・乙女―通称卍の息子で高校生の弓夫の教育係を頼まれたのだ。弓夫の父は、民自党党首・河山善助の長男、善太郎。弓夫も将来を期待されていたが、東大寺放火事件の嫌疑がかかるなか、善助の妻よね子の他殺体が自宅で発見されたのだ!?会心の書下し長篇。(粗筋紹介より引用)

 とにかく無駄が多すぎ。前半が長すぎる、というより事件となんの関係も無し。書き下ろしなのになんなの、これ。トリックそのものはこの手もあったなといった面白さがあるけれども、もっと別の処理があったんじゃないだろうか。これのどこが「哲学ミステリー」なんだろう。「真本格」に騙された。読むんじゃなかったとやっぱり後悔。☆。




北森鴻『花の下にて春死なむ』(講談社)

 誰にでも秘密はある。
 孤独死した俳人の窓辺の桜は、なぜ季節はずれの花をつけたのか。写真展のポスターは、なぜ一夜にしてすべて剥がされたのか。謎が語りかけるさまざまな生、さまざまな死。
 ミステリの醍醐味を満喫させる鬼才の連作短編集。(粗筋紹介より引用)
 推理作家協会賞連作短編賞受賞。「花の下にて春死なむ」、「家族写真」「終の棲み家」「殺人者の赤い手」「七皿は多すぎる」「魚の交わり」を収録。

 古い作品から書き下ろしまで色々あるけれど、やっぱりこの人はうまいなと感心。当時から読み応えのある作品書いていたんだなと再確認しました。個人的には表題作が好きなんだけれども、うまいなあと感心したのはやはり書き下ろしのほう。鮎川賞出身者ってやはりレベルが高いと思わせるに相応しいね、今年の活躍は。★★★★。




霞流一『オクトパスキラー8号』(アスペクトノベルス)

 浅草に程近い下町・藻呂黒町である日、売れないイロモノ芸人の変死体が発見された。蛸薬師の境内にあるイチョウの木に、死体は「蛸の絵馬」とともに吊るされていたのだ。以後、被害者が出演していた寄席の芸人たちを中心に「タコ」尽くしの怪事件が続発し、ついには火星人襲来、連続殺人事件にまで発展!!一体「タコ」が意味するものとは何か!?たまたま事件に出くわした「私」こと床山刑事は「世直し」と称して現れた大物タレント議員―権力と人気を濫用する名探偵・駄柄善吾に、国家権力を楯に助手にされ、事件の真相究明に乗り出したが…。没落寸前の寄席を舞台に繰り広げられる抱腹絶倒の異次元空間!ご存知、霞流一の書下ろし"お笑い&奇天烈"長篇本格ミステリー小説。(粗筋紹介より引用)

 なんで笑えないんだろう、この人の作品って。正面から笑いとミステリの融合に取り組んでいるのがわかるし、かつ処理も悪くないな(見立ては無理があるけれど)と思うのだが、いかんせん笑わせ方が下手なので楽しめない。衆議院議員で元刑事役の俳優という名探偵の設定の割には定型的だし。ただ、最後の一言には感心したかな。予想外だったんで。★☆。




西澤保彦『ナイフが町に降ってくる』(ノン・ノベル)

 今回の主人公は<何かに疑問を抱くと時間が停止する>能力(というより悪癖)を持つ青年末統一郎。しかのその能力、必ず近くの人一人を巻き込んでしまうという。しかも周りの時が止まってしまう“時間牢”の中でも年は取るという。そんな彼の目の前でいきなり男の人が倒れた。しかもナイフを腹に突き立てて。この謎に思わず時は止まってしまった。そんな“時間牢”に今回巻き込まれたのは女子高校生真奈。逆上しながらも統一郎と真相を追って町中を歩くがあら不思議、いたるところにナイフを腹に刺した人がいるではないか。ふたりは“時間牢”から脱出することができるのか。

 相変わらず奇想天外な、そして魅力的な設定を考え出すなと感心してしまう。あとはこれであっと言わせる結末を考えてくれれば完璧なのだが、なかなかそうはいかないようだ。今回もそう。途中で出てくる仮説の方が面白いのに、結末の方があまりにも現実的すぎる解決になっている。今回は謎とストーリー展開と、登場人物の配置が妙にミックスして面白かったのに残念だ。特に今回は登場人物たった二人なのに、話がだれず面白い仕上がりになっているのにと思うと本当に惜しい。★★☆。
 ちなみに、こういう我が儘な主人公、大好きです。葉山君にやっぱりと言われてしまいましたが(笑)。ただちょっと、週刊誌等に影響された人物像じゃないの、これって。それに、途中の女子高校生の行動はやっぱりやりすぎです。




宮部みゆき『クロスファイア』上下(カッパノベルス)

 OL青木淳子は超能力者。火を自由に操る念力放火能力者であった。たまる力を放出するために忍び込んだ廃工場で、彼女は三人の若者が瀕死の男を水槽に投げ込もうとしていた場面を見て、とっさに二人を焼き殺す。死んだ男の彼女を助けるため、逃げ出したリーダーの行方を追う。
 一方廃工場の事件を見て、警視庁放火捜査班の「おっかさん」こと石津ちか子はある事件を思い出す。女子高校生連続殺人事件の有力な容疑者でありながらも証拠が残らなかったことから逮捕することが出来ず、逆に冤罪の犠牲者としてマスコミのヒーローとなった少年が、荒川で同じく凶暴な前歴を持つ若者3人と一緒に焼き殺された事件を。縄張りの壁がある中でもちか子は荒川署の牧原刑事とともに事件を追う。
 淳子は隠れていたリーダーと連れ去られた彼女を見つけるが、後一歩のところで二人とも撃ち殺される。一体誰が殺したのか。さらに謎を追う淳子の前に「ガーディアン」という組織が彼女の力を利用したいと近づく。一方ちか子たちも淳子の存在に気が付くが……。

 キーワードは「正義」。青木淳子も「ガーディアン」も、そしてちか子に代表される警察も。さらにちか子の場合は「親」というキーワードも加わるわけだが。誰もが自分の持つ「正義」によって動いている。そして「正義」を履行する力を普通は「権力」もしくは「金」、そして 「暴力」を用いるわけだが、青木淳子の場合は超能力であった。超能力を使うことによる己の正義の履行と、超能力を使って「私刑」を行うことによる快感と苦悩。超能力物はいい加減やめてほしいと思っているのだが、こういう魅力溢れるストーリーを提供されると、うなるしかなくなる。超能力者の苦悩と若者の「きれる」行為、そして現在の警察組織の矛盾。それらをうまく絡めながらも一瞬の中だるみもなく物語は進行していく。
 ここで評価をしてしまえば、上巻は★★★★☆、下巻は★★、トータル★★★というところ。とにかく面白い。一気に読める。けれども最後は不満だらけ。上巻はきっちりと書き込んでいるのに、下巻は書きなぐったという印象。葉山君が推測していたが、とにかく10月に本を出す(このミス投票に間に合わす)ために無理矢理終わらせたんじゃないだろうか。そう思うほど、下巻の完成度は低い。大体、ガーディアンが出てくる理由があまりにも不自然。自分がトップだったらわざわざ青木淳子と接触しない。それにガーディアンと淳子の絡む部分なんかはあまりにもパターン化した手法でないだろうか。青木淳子と同じ行為をしながら、それでいて苦悩も何もないと言ったキャラクターのみを出した方が個人的には面白かったと思う。
 文句は書いたが、それでもノンストップで読むことが出来るのはさすが宮部みゆき。普段からレベルが高い分、高望みをしてしまうのは私だけでないだろう。文庫化するときは是非とも書き直してほしい。