「少年A」の父母『「少年A」この子を生んで…… 父と母悔恨の手記』(文春文庫)


発行:2001.7.10



 十四歳の息子「少年A」が、神戸連続児童殺傷事件の犯人「酒鬼薔薇聖斗」だったとは。逮捕当日まで、我が子の犯行を想像すらできなかった両親が、悔恨の涙とともに綴った手記。私たち親は、どこで、何を、間違えたのか? 十四年にわたるAとの暮しと、事件前後の家族の姿、心情を記した衝撃のベストセラー、ついに文庫化。(粗筋紹介より引用)

【目 次】
神戸連続児童殺傷事件について――両親の手記を刊行するに当たって
一章 被害者とその後家族への皆様へ<父の手記>
二章 息子が「酒鬼薔薇聖斗」だと知ったとき<母の手記>
三章 逮捕前後の息子Aと私達<父の日記と手記>
    I 逮捕された息子A
    II 逮捕後、家族の漂流の日々
    III 淳君の行方不明と私達
四章 小学校までの息子A<母の育児日誌と手記>
    I 初めての子Aの誕生
    II Aの日常と躾
五章 中学校に入ってからのA<母の手記>
    I 気付かなかった「前兆」
    II 不登校、そして忌まわしい事件が……
六章 Aの「精神鑑定書」を読み終えて<母の手記>


 1997年5月27日、神戸市須磨区で24日から行方不明になっていた土師淳君(11)の頭部が同区中学校の正門で発見される。口には犯人から警察への挑戦状とも取れる紙片が入っており、末尾には「酒鬼薔薇(サカキバラ)」と記されていた。同日午後、胴体部分が近くの山で発見。6月4日、「酒鬼薔薇聖斗」と名乗る犯人から神戸新聞社宛に犯行声明文が届く。マスコミによる情報合戦が繰り広げられたが、6月28日、同区に住む中学三年生の少年(15 事件当時14)が逮捕された。少年は2月10日、小学6年生の女児二人をハンマーで殴り怪我を負わせていた。また3月16日には、小学4年生の女児の腹を刺して重傷を負わせ、同時に別の4年生の山下彩花さんの頭をハンマーで殴り死亡させていたことも自供した。
 少年は東京都府中の関東医療少年院に収容後、2004年に仮退院、2005年1月に本退院となった。当時少年だった男性(22)は「一生かけて償います」という謝罪の言葉も遺族側に伝えた。


 14歳の少年が、「人を殺したいから」殺した一連の事件。マスメディアは狂喜乱舞しながら一連の事件についてあることないことを喋り捲り、あるいは書きまくった。特に少年Aの両親への責任を世に厳しく問いかけた。事件は少年法の壁によって真相がベールに包まれてしまったため、マスメディアは「報道の自由」のもとに憶測や推理を根拠もなく垂れ流し続けた。
 本書は、少年Aの両親の悔恨の手記である。普通の家庭だと思っていた両親。不登校などの問題こそあったものの、まさか自分の息子がそのような大それたことをしていたとは……。
 多分、世の親達は同じようなことを思うだろう。これは自分の子供が犯罪を犯したときとは限らない。たとえば、自分の娘がいつの間にか妊娠していたとき、もしくは息子が女性を妊娠させたとき。いつの間にか子供が学校、仕事を辞めていたとき。シチュエーションは違えど、自分の子供が自分達の想像とはかけ離れた行動をとることなど、世の中にはいくらでもあふれているのである。
 とはいえ、さすがに自分の子供が殺人犯、しかも世間を騒がせている事件の犯人というのは大いなる驚きであろう。しかもマスコミが大挙駆けつけ、接触を試みる。悔恨と同時に恐怖ともいえる状況である。個人的には、なぜ両親がここまで叩かれなければならなかったのか、不思議でならなかった。とはいえ、週刊誌を読む気にはならなかった。両親との接触が難しい状況で、どこまで真実に迫ることが出来るか、大いに疑問だったからだ。
 本書では、両親が少年Aが生まれてから事件までについてを書き記している。多分、今までのマスコミの報道とは全く異なるものだったと思われる。
 本書を読む限り、両親は普通の両親だったと思われる。もちろん、すべての真実を書いているとは思っていない。子供である少年Aが両親に対してどう思っていたのか。こればかりは想像もつかない。世の中の親というものは、自分の教育が間違っていないものだと常に思っているものだ。もしかしたら、両親が思ってもいないところで少年Aが傷つく行動、言動があったのかもしれない。本書は両親の手記であるが、事件の真相に迫るものは何一つないといってよい。私は、子供を持った普通の両親の普通の手記だと思う。子供の心の全てを、親が知ることはない。それは、親になる前の自分が一番よく知っているだろう。
 とはいえ、被害者側である土師守『淳』(新潮文庫)あたりを読むと、両者の意識の差に愕然とさせられることもある。たぶんどちらも真実なのだろう。ただ、加害者側は結局、自らの行動を振り返る余裕などないのだろうし、無意識に正当化している部分もあるのだろう。

 本書は1999年4月に文藝春秋社から出版された単行本を文庫化したものである。本の印税は、全て被害者の方への償いとさせていただいたと、文庫版のあとがきに書かれている。


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