ここで取り上げた事件は、一九四五年から現在までの約半世紀に起こった日本の大量殺人事件である。
単純に被害者の多さの順に選んでいったが、五人以上としたのは、偶然にもそれが本書収録の分量にかなっただけであり、特別な意味はない。
ただ、仮にこれを四人以上とすると、事件件数は一挙に膨らむ。つまり、わが国ではそのあたりに複数被害殺人のひとつのボーダーがあるということを予想させる。
もとより、大量殺人の定義は定まっていない。と同時にいままでは、わが国における大量殺人の規模や全容も、はっきりしているとは言い難かった。戦後に限ってみても、大量殺人といえば小平義雄事件や帝銀事件、大久保清事件、近年では勝田清孝といった世間によく知られた事件が十本も揃えばいいほうで、結局われわれは、そうしたイメージだけでわが国の大量殺人を推し量ってきた観がある。
しかし今回、あらためてその全容がわかるとともに、大量殺人にたいするイメージの変更も必要になってきた。
まずそのひとつは、思いのほか家庭内殺人が多いということである。そしてこれらの事件もふくめ、大量殺人事件の展望が、むろん個別の動機や直接の原因は千差万別であるにもかかわらず、ある程度類型化できるということであろう。
が、おなじような展開をたどりつつ、その一方では、その後の事件の成り行きの違いにも驚かされる。死刑あり無期懲役あり、恩赦、不起訴、自殺、獄病死、迷宮入りありと、まさにさまざまである。
とりわけ奇異に感じるのは法的決着(判決)のバラつきである。Aという事件が死刑なのに、何故Bの事件が無期なのか、また不起訴なのかという疑問は、当然だれしもがもつ新たな疑問だろう。
私には、これが「法律」というものだ、としか言いようがないが、だからといって、すべて重罰に統一しろという結論は総計であろう。私としてはむしろ、こんな「法律」や司法制度に命をたやすくあずけていいのか、という思いが先にたつだけである。
ところで、ここでの被害者数のカウントには「致死」もふくまれている。また本書では、加害者・犯人に「生涯殺害者数」という概念を取り入れているため、一事件での被害者数や判決時認定の被害者数とは必ずしも一致していないことがある。(以下略)
【目 次】
第一部 十人以上殺し
第二部 九人殺し
第三部 八人殺し
第四部 七人殺し
第五部 六人殺し
第六部 五人殺し
● 戦前の大量殺人(一九四五年八月以前)
「まえがき」にもある通り、五人以上の被害者(嬰児は含まれていない)が生じた大量殺人事件の一つ一つについて紹介したもの。一つの事件につき2〜5ページで、事件の経緯や顛末、裁判の結果、その後などが書かれている。
放火や無理心中、未必の故意、精神病患者の犯行、テロ事件など、大量殺人事件の今までの範疇には含まれなかった事件も収録されているところは珍しいといえる。
書かれている内容はあくまで概略であるため、この本から事件一つ一つの詳細を知ることはできない。しかし、日本での大量殺人事件の全体像を知るには、格好の著である。
収録されている事件は以下。
・連合赤軍事件
・帝銀事件
・地下鉄サリン事件
・古谷惣吉連続老人殺害事件
・茨城・徳宿村の精米業一家9人毒殺事件
・和歌山の兄一家8人殺害事件
・小平義雄連続女性殺害時件
・北海道・音江町の農家8人殺害事件
・栗田源蔵連続女子殺害事件
・青森・新和村の実父一家8人殺害事件
・福岡・豊津村の別れ話8人殺害事件
・昭島の「昭和郷」放火8人殺害事件
・大久保清連続女性殺害時件
・連続企業爆破事件
・勝田清孝連続強盗殺人事件
・大阪・池田小乱入8人刺殺事件
・長野・市田村の一家7人殺害事件
・川崎の家族7人殺害事件
・岩槻の家族7人殺害事件
・熊野の一族7人射殺事件
・松本サリン事件
・北九州の連続監禁7人殺害事件
・大阪・寝屋川町の工場主一家6人殺害事件
・福岡・中間町の雑貨商一家6人殺害事件
・日光の旅館一家6人殺害事件
・熊本・一勝地村の農家6人殺害事件
・三鷹事件
・北海道拓殖銀行美深支店6人殺害事件
・大阪・北八下村の青果商一家6人殺害事件
・山口・大内村の農家6人殺害事件
・北海道・真狩村の農家6人殺害事件
・高知・徳島・香川連続強盗殺人事件
・島原の酒造元一族6人殺害事件
・東京・池袋のアパート放火6人殺害事件
・安芸の近隣6人射殺事件
・熊本の義姉一家ら6人殺害事件
・東京・新宿のバス放火6人殺害事件
・夕張の保険金放火6人殺害事件
・須賀川の女性祈祷師6人殺人事件
・横浜のマージャン店放火6人殺害事件
・宇都宮の宝石店放火6人殺害事件
・片岡仁左衛門一家5人殺害事件
・北海道・奈井江村の農家5人殺害事件
・静岡の雑貨店一家5人殺害事件
・小田原の銭湯一家5人殺害事件
・名張の毒ブドウ酒5人殺害事件
・西口彰連続強盗殺人事件
・高知・大方町の恋狂い5人殺害事件
・東京・上野の消火器商一家5人殺害事件
・米子の家族5人殺害事件
・三菱銀行北畠支店猟銃立て籠もり事件
・新潟の妻子ら5人殺害事件
・藤沢の母娘ら5人殺害事件
・東京・中野の下宿生5人殺人事件
・東京・練馬の会社員一家5人殺害事件
・岩手・種市町の妻子5人殺害事件
・兵庫・島根・京都連続スナックママ殺害事件
・大阪の連続愛犬家殺害事件
・大阪の連続女性殺害時件
・下関の通り魔5人殺害事件
・弘前の消費者金融放火5人殺害事件
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