中野並助『犯罪の通路』(中公文庫)


発行:1986.11.10



 終戦時、検事総長の職にあった著者の貴重な捜査体験記。永年、地方の検察庁を転々とし、仕事を、酒を愛した名物大型検事がつづる「怪汽船、大輝丸」「訴訟マニア」「少女殺人魔・佐太郎」など、人間の不思議を見つめる四十篇。(粗筋紹介より引用)
 著者は1883年群馬県生まれ。東京帝国大学法科を卒業後、検事となる。1940年に広島、41年に大阪の各高検検事長、1934年検事総長に就任。1946年、公職追放により退官し、弁護士となる。1955年に死去。

 大正、昭和初期に検事をつとめた人が事件を、裁判をどう考えているかを知ることができたという点では貴重か。色々書かれているのだが、結局は自分や検察の自慢話が主になっており、自省の部分は少ないし、現代につながるような金言があるわけでもない。
 連続少女強姦殺人事件の犯人、吹上佐太郎の裁判については、関心のある方は読んでみてもいいかもしれない。佐太郎が自白した事件のうちのいくつかは、すでに「真犯人」が捕まっていた後だったのだ。

 本書は1970年3月に出版された『犯罪の縮図』(法務省法務総合研究所)を改題したものである。

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