若園令瑞『実録 死刑執行』(新風舎)


発行:2005.2.25



 私は現在八十六歳の老木です。現世は犯罪の世界と存じ、犯罪の抑止の一助として十年がかりで本書を執筆いたしました。
 私利私欲のためではなく、大東亜戦彼我陸海空軍将兵戦没者之霊、原爆横死者之霊、学徒出陣戦没者之霊、学童疎開水難横死者之霊、阪神大震災横死者之霊に回向し、以って被災地、神戸長田区に合わせて死刑囚、四聖六道法界萬霊、供養のため宗教法人、日蓮宗、回向院を建立したいのです。宋派を問いません。某の意を汲み取り発起人の尊命を頂戴したいのです。(連絡先は略)

(「はじめに」より引用)


【目 次】
死刑判決文
一 死刑執行起案書造り
二 死刑囚の延命策
三 死刑囚の日課
四 死刑囚の夢
五 お迎えの恐怖
六 死刑囚の心情
七 死刑囚の余暇
八 法務大臣の決裁
九 死刑囚の運・不運
十 赤鉛筆
十一 絞首
十二 絞縄
十三 死刑執行
十四 吊されて死亡
十五 不浄役人にされて
十六 死に甲斐検体
十七 絞首台執行(体験談) 十八 絞首台説明
十九 安心立命
二十 死刑囚引導文
二十一 縊死による自殺
二十二 死刑の移り変わり
二十三 刑の内容
二十四 試刀名について
二十五 ギロチンから絞首刑へ
あとがき
参考文献一覧

 著者の若園令瑞(わかぞのれいずい)は岐阜県にある日蓮宗の寺の住職。帯には「元住職が伝える死刑囚の現実と命の大切さ」とあるけれど、内容が薄すぎるから、出版社も困ったんだろうな。新風舎だから、たぶん自費出版でしょう。
 内容は目次に書いてあるとおり。各項目がたったの数ページしか書かれていないので、トータルでも95ページしかない。しかも中身は、何十年前の文献から引っ張ってきたんだ、と聞きたくなるぐらいの薄っぺらい内容。平成の世になって、「尊属殺人は大幅に緩和されている」(現在は削除)とか、検体の話で出てくるのが大米龍雲とか、「大阪拘置所では執行の二日前に通告する」(もちろん今は執行当日である)とか、古いデータがわんさかと出てくる。執筆を始めたのが昭和63年と書かれているが、もう少し何とかならなかったのか。
 最後の方で住職らしい死刑反対論、というか命を大切に、ということがさらっと書かれている。
 2005年にもなって「実録」と銘打たれた本が出版されたから、何か面白いことが書かれているのかと思ったら、大失敗であった。自費出版にもピンからキリまである。

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