死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90編
『命の灯を消さないで 死刑囚からあなたへ』(インパクト出版会)


発行:2009.4.10



(前略)
 10月10日は世界死刑廃止デーであり、私たちはそれを記念して毎年集会やコンサートを催している。2008年10月の集会では、「死刑囚からあなたへ」と題して、確定死刑囚からのメッセージを読むこととした。死刑囚ひとりひとりの生の声を伝えることこそが、今大事であり必要なのだとして企画された。7月に確定死刑囚105人(当時)へアンケートを送り、彼らが今一番訴えたいことを書いてもらうこととした。家族らを通じてアンケートを送り、家族や支援者のいない人には参議院議員の福島みずほ事務所を通じて送付した。返ってきたアンケートは77通であった。その中には、77通りの死刑囚の思いがこもっていた。アンケート用紙だけでは足りず、便箋に何枚も書いてきた人もあった。なかには27枚もの便箋にいっぱいの思いを書いてきた人もいた。写真や絵をいっしょに送ってくれた人もあった。簡単にアンケートに答えただけの人もいたが、そこにはその人の思いがあった。集会では、舞台中央に死刑囚が書いた手紙や絵が映し出され、それに合わせて死刑囚のメッセージが読まれた。この死刑囚アンケートの集計も紹介された。再審請求中の人が43人、その中には全くの冤罪であるという主張の人もある。面会も文通も全くない人が3人、面会がないという人が14人いた。死刑囚の年齢は最年少が27歳、最高齢は右半身不随の86歳の人である。また心理的ストレスがあり、自由に歩くこともできず一日中座ってなくてはいけないために、腰痛や糖尿病、高血圧の人が20人に達している。アンケート結果からは拘置所の過酷な処遇が見えてきた。
(中略)
 5月から裁判員制度が始まる。あらゆる人が死刑と向き合う可能性が出てきた。この確定死刑囚のメッセージはひとりでも多くの人に読んでもらいたい。死刑囚は日々何を思い、何を考え、どうしたいと思っているのかを少しでも知ってもらえればと考える。死刑囚は確かに犯罪者ではある(冤罪でなければ)が、われわれと同じ人間であることを、いま一度ここで確認してもらえればと、切に願う。

(「刊行にあたって」より引用)



【目 次】
死刑囚を知ることからすべてが始まる 福島みずほ
刊行にあたって
死刑囚からあなたへ(アンケート回答)
この本が生まれるまで――死刑囚アンケート経過報告
死刑確定者のおかれている状況――アンケートから
激増する死刑執行について



 1989年に国連が採択した死刑廃止条約の批准を求めて活動している「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」が2008年8月から9月にかけて全国の死刑囚105名(当時)にアンケートを送って、77人から回答を得られたものを中心にまとめたものである。77名のうち、執行された人が7名、獄死した人が2名いる。また1名は家族に危害が及ぶことをおそれて掲載を拒否している。他に1名が確定前ということで回答をしないという手紙が来ているとのこと。
 アンケートからは死刑囚が抱えている様々な思い、叫びが見えてきて、非常に興味深い。罪を悔いるもの、冤罪を叫ぶもの、拘置所における処遇の不満を訴えるもの、淡々とした現状報告、死刑制度への怒り、死刑廃止の願い等々。そこにあるのは、滅多に聞くことのできない、死刑囚の生の声である。その声を聞いてどう思うかは読者の判断である。無罪主張を訴える人たちに嫌悪感を抱く人がいるかもしれないし、処遇の悪さを訴える声について図々しいと思う人がいるかもしれない。死刑廃止を叫ぶ人に、自分のやったことを省みずに何を言っているのかと怒る人もいるだろう。生きて償いたいという声に、何を償うんだと嘲笑する人がいるかもしれない。逆に死刑囚のそんな声に同情する人もいるだろう。罪を悔いる姿に感銘を受ける人がいるかもしれない。
 ただ、実際に起こした事件を隠す(表に出さない)やり方は、少々問題ではないだろうか。死刑囚を知るのであれば、やはり死刑判決を受けた事件そのものについても触れるべきであろう。都合の悪いところを隠して、死刑反対を訴えるのはフェアではない。
 また、「激増する死刑執行について」については、この本の性格からするとここに載せるべきではなかったと思われる。この本はあくまで死刑囚という存在を確認するための本であり、死刑執行の現状を訴える性質の本ではないからだ。

 死刑囚の生の声を伝えるというのは、確かによい企画だと思う。だが匿名男性Aが「以前の弁護士会の調査同様、形式だけで終えられてしまうと、その後の揺り戻しと反動から覚える失望も相当なものになるので、できるなら本腰を入れて、本気で乗り込んでくるぐらいの気概でやってもらえると助かります」と書いているように、本腰を入れて死刑反対を訴えてほしいものだ。また松本昭弘死刑囚が書いているように、日本弁護士協会は死刑反対を訴えるのなら新しい確定囚にも手弁当で就くようにしてほしいものだ。それとどうせなら、被害者側にも弁護士を派遣し、マスコミなどのいわれのない中傷や取材攻勢に対する防御も行ってくれ。

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