橘由歩『身内の犯行』(新潮新書)

発行:2009.5.20



 いまや殺人事件のうち、二件に一件が「身内」で起きている! 愛すべき家族同士で、なぜ殺意が芽生え、どのようにして殺害に至ったのか? 秋田連続児童殺害などの子殺し、板橋両親殺害爆破などの肉親殺し、渋谷「セレブ妻」夫バラバラ殺人などの夫婦間殺人、そして、中津川一家五人惨殺などから現代の家庭内殺人の深層を探る。あなたの家族から殺人者を出さないために、身内ゆえの歪みを活写したノンフィクション。 (粗筋紹介より引用)

【目次】
 はじめに
 第一章 わが子を殺める
  秋田連続児童殺害事件
  佐賀・長崎保険金殺人事件
  奈良長女薬殺未遂事件
  子殺しという誘惑
 第二章 なぜ親は殺される
  土浦一家三人殺害事件
  名古屋母親殺害事件
  板橋両親殺害爆破事件
  わが子を殺人者にしないために
 第三章 母親と息子
  中津川一家五人殺害事件
  茨城孫殺人未遂事件
  手放せない息子
 第四章 妻が夫を殺す時
  渋谷「セレブ妻」夫バラバラ殺人事件
  名古屋「ネット依頼」夫殺人事件
  夫を殺したい妻たち
 おわりに

 子殺し、親殺し、家族殺し、妻殺し。家族間の殺人について焦点を当てた一冊。
 「はじめに」で、家族間の殺人が増えているという数字を挙げているが、10年前との数字の比較でしかなく、昭和の時代との比較ではないため、あまり説得力はない。ただ、身内の殺人を研究するのなら、単純なトータルだけの数字を比較しても仕方がないだろう。生活苦から生まれた子供を殺害したケースだって、身内の殺人だからだ。だから本当は、殺害件数の中身をもっと精査すべきなのであるが、残念ながら本書ではそこまで突っ込んだ研究は出てきていない(もしかしたらあるのかもしれないが、調べたことはない)。
 取り上げている事件が、マスコミでも大きく取り上げられたものばかりであるのだが、どちらかといえば特殊要素も重なるものであるし、できればもっと普通の人が、単純殺人を犯したケースを採り上げるべきではないかと思う。身内殺人の多くは、衝動的だが今までの恨みや不満が溜まって、というケースばかりとは限らないからだ。はっきり言ってしまえば、調べやすい事件ばかりを採り上げている。ある意味安易な手法であり、身内殺人にこだわるのならもっと単純殺人を探すべきだった。
 着目点は悪くないのだが、アプローチの方法が安易。研究者ではなくジャーナリストであり、新書ということもあって手軽につまめるところを探してきた、ということが本音だろう。もちろん取材に多大な時間と費用が掛かることは承知しているし、苦労ばかりで実入りが少ないということもわかるが、それでもやりようがあったのにと思うと、物足りない一冊であった。

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