(前略)
殺人は、人が人の命を奪おうと意識し、奪う行為だ。
そこでの意識を知ることこそが、まだ起きていない殺人を予防し、自分自身が加害者にも被害者にもならなくて済むことに、繋がるのではないかと考えている。
犯行動機についてなら、裁判で明らかになるではないか、との意見もあるだろう。だが残念ながら、司法の場ですべてが詳らかになるという思いは捨てたほうがいい。
(中略)
そのような現実の中で、殺人犯の犯行に至るまでの“感情の機微”を伝える方法として、私が思い立ったのが、本書のタイトルにもなった「殺人犯との対話」だった。つまりは直接殺人犯本人と交わしたやり取りを中心に、殺人事件がどのような状況下で行われてきたのかを、明らかにしようと考えたのだ。
(中略)
じつは私は当初、殺人犯の共通項を探していた。彼ら、彼女ら全員に通じる“なにか”があるのではないか、と思いを巡らせていたのだ。だが、本書をお読みいただければわかる通り、そのようなことはなかった。
(中略)あえて挙げるならば、全員が自分のため“身勝手に”人の命を奪ったということぐらいだろうか。
そうしたことと同じく、逮捕後の後悔や反省の度合いという面でも、個人によって大きな開きがある。
(中略)
なぜ私は闇に目が向いてしまうのか。それは、殺人犯を通じて人間を見たかったからに違いない。非人間的な殺人という行為は、人間だからこそやってしまうのだということを、改めて確認したかったのだ。
(あとがき「殺人犯との対話の後に」より一部引用)
【目次】
CASE1 北村孝紘 大牟田連続4人殺人事件
CASE2 松永太 北九州監禁連続殺人事件
CASE3 畠山鈴香 秋田児童連続殺人事件
CASE4 鈴木泰徳 福岡3女性連続強盗殺人事件
CASE5 宇野ひとみ 高槻養子縁組保険金殺人事件
CASE6 下村早苗 大阪2児虐待死事件
CASE7 山地悠紀夫 大阪姉妹殺人事件
CASE8 魏巍 福岡一家4人殺人事件
CASE9 高橋裕子 中州スナックママ連続保険金殺人事件
CASE10 角田美代子 尼崎連続変死事件
フリーライターの小野一光が、タイトルにある通り殺人犯にインタビューを行った連載をまとめた1冊。とはいえ、実際に殺人犯と面会して取材できたのは北村孝紘死刑囚、松永太死刑囚、魏巍死刑囚の3人のみ。そのため、被害者遺族や事件関係者、共犯者、さらには犯人の周辺人物、刑事、弁護士などにも随時インタビューを行い、裁判に出席することで、殺人事件や殺人犯の実像に迫っている。
だから、タイトル通り殺人犯全員と対話しているのかと思っているとがっくりきてしまう。周辺人物にも問い合わせることで、殺人犯の実像を浮かび上がらせようとすることで、殺人犯と対話した気分になっているのだろう。はっきり言えば肩すかしだが、共犯者などへの取材も含めれば、労力がかかっていることも事実。まあ、よくある週刊誌の殺人実録ものだと思えば、間違いないだろう。もうちょっと突っ込んだ取材を見たかったが、このあたりが限界か。
人懐っこく、知り合いには気を遣う北村孝紘死刑囚。罪悪感などなく、身に覚えのないことと言い張る松永太死刑囚。反省している魏巍死刑囚。殺人犯の素顔を知ることができるのはちょっとした収穫。
小野一光は1966年、福岡県生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。戦場から風俗までをモットーに取材。著書に『家族喰い』(太田出版)などがある。
本書は『週刊文春』2015年1月22日号~9月10日号に掲載されたものを加筆・修正している。
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