年報・死刑廃止編集委員会編『年報・死刑廃止2024 袴田さん再審判決・死刑廃止へ』(インパクト出版会)

発行:2024.10.10



【目次】

死刑囚表現展2024作品集 第20回「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」表現展応募作品から

井上孝紘/北村孝/猪熊武夫/植松聖/風間博子/金川一/東西南北/中田典広/長勝久/西口宗宏/原正志/檜あすなろ/何力/堀慶末/山田浩二
特集・袴田さん再審判決・死刑廃止へ
笹原恵 無罪判決を聞く
保坂展人/笹倉香奈/竹田昌弘/石塚伸一/岩井信 座談会 袴田再審裁判・判決以降を考える
山崎俊樹 裁かれるべきは警察・検察、そして裁判所だ 釈放一〇年余、袴田巖さんの現状と再審公判を終了して
聞き手・笹原恵 田中薫弁護士が語る「袴田再審」
角田由紀子 袴田再審公判傍聴記
聞き手・笹原恵 袴田ひで子さんに聞く
2023-2024年死刑をめぐる状況
永井美由紀 死刑執行の無法状態を糾明する訴訟傍聴記

再審請求中の死刑執行による弁護権侵害国賠尋問調書
大河原昌夫 特定少年への死刑判決を考える
田口真義 裁判員経験者から「死刑執行停止の要請書」再提出
小川原優之 日本弁護士連合会の報告
小林修 日弁連、死刑再審弁護活動援助制度を開始
太田昌国 「死刑囚表現展」と死刑をめぐる現実  第19回死刑囚表現展を終えて
太田昌国+可知亮 「喪失と悲しみ、そして赦すこと」開催にあたって 第一三回死刑映画週間
前田朗 死刑関連文献案内 二〇二四年
中川英明 この10年で最多となった二〇二三年の死刑執行 死刑廃止に向けた国際的動向
菊池さよ子 死刑判決・無期懲役判決(死刑求刑)一覧


死刑廃止運動にアクセスする
深瀬暢子 赤堀政夫さん追悼

追悼・中道武美弁護士

死刑を宣告された人たち

法務大臣別死刑執行記録

死刑廃止年表2023


 毎年10月10日の死刑廃止デーに発行される「年報・死刑廃止」の2024年度版。編集委員は石塚伸一、岩井信、可知亮、笹原恵、高田章子、安田好弘、深田卓(インパクト出版会)。
 2024年9月26日、静岡地裁で袴田事件再審判決公判があったため、結果が載るどうかというところであったが、「編集後記」を読むとぎりぎり間に合ったようで、笹原恵によるレポートが載っている。
 座談会は8月6日に行われたもので、再審判決公判前。なんか、毎年似たような議論をしているような気もするが、新しい情報も出てくる。袴田事件無罪確定を受け、議論は活発化しそうだが、どうなることか。
 その他、袴田事件に関する記事が多い。まあ、それは当然のことだろう。

 「「喪失と悲しみ、そして赦すこと」開催にあたって」は映画とゲストトークの概要をまとめたものだが、深い議論については特に書かれておらず、肩透かしにあう内容である。
 「死刑執行の無法状態を糾明する訴訟傍聴記」の一つ目は、岡本(旧姓河村)啓三元死刑囚が再審請求中に死刑執行されたことに対する弁護権侵害国賠訴訟の傍聴記である。『年報・死刑廃止2021』から弁論の内容が毎年掲載されている。強盗殺人罪ではなく強盗罪と殺人罪だから死刑判決にはならないはずだという主張は河村元死刑囚の言い逃れにしか聞こえない。どちらも殺されて金を奪われた結果なのだが、彼らにとっては中身が違うらしい。そもそもあの犯行状況で殺人を目論んでいなかったという主張が通るほうがおかしい。こういう詭弁をまともに取り上げようとするところが、死刑廃止運動が一般に広がらない要因の一つだと思える。
 二つ目は告知当日の死刑執行が違法かどうかを争う訴訟である。こちらは『年報・死刑廃止2022』から毎年掲載されている。
 「特定少年への死刑判決を考える」は甲府夫婦殺害放火事件の遠藤裕喜死刑囚についての、精神科医からの意見である。検察官依頼の精神科医も弁護人依頼の心理学者も、犯行に対する影響という観点からは大きな違いがあったものの、精神障害自体は認めたが、地裁が死刑判決を言い渡した。そのことに「永山則夫に対する緻密な精神鑑定を行った石川義博医師、それを軸に死刑判決を回避した東京高裁の寺尾三雄判決に対する、日本の最高裁の怒りの持続、それに追従する、せざるを得ない日本の裁判官の姿を見る」と書かれている。無期懲役判決を言い渡したのは船田三雄裁判長だったはず、改姓したのだろかと思ったが、それらしい文献は見当たらない。それはともかく、結論が「死刑は人の更生、精神医療の言葉では回復に対する一切の拒否表明であるが故に反対する」と、ありきたりな結論に至っている。もうちょっと精神医学からのアプローチが欲しかったところであるし、被害者遺族への言葉が一切ないところに死刑反対論の限界が出ている。
 その他は恒例の年度ごとのまとめや報告である。
 追悼文にある赤堀政夫さんは、1954年に起きた幼女誘拐殺人事件「島田事件」で1960年に死刑が確定後、1989年に再審無罪となった“無実の元死刑囚”である。
 中道武美弁護士は死刑廃止運動に積極的に取り組んできた弁護士である。藤岡英次元死刑囚の再審開始に奔走した。

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