法廷に通い続ける佐木隆三が出会った犯罪者、裁判官などをエッセイ風にまとめたもの。氏の著作を追いかけている身からすると、今までに書かれた犯罪者たちをダイジェスト風にまとめたものという印象がある。手軽に読むには良いかも知れない。
犯罪者、殺人者とは新聞だけの出来事ではない。いつ、我々の身に降りかかるかもしれないし、我々の隣にいるのかもしれないのだ。どんな凶悪な事件を引き起こそうと、彼らは人間であり、我々と同じ社会に住んでいた。だからこそ、彼らのことを佐木隆三は「隣人」と呼んだ。そんな「隣人」たちの記録を残す作業は、とても辛く、大変な作業である。一度でも裁判の傍聴席に座ってみるがいい。裁判の進行のあまりもの遅さに辟易するかもしれないし、手続きの面倒さに匙を投げるかもしれない。ましてや昔は、裁判所でメモを取ることすら許されなかったのだ。そんな裁判所に通い続け、小説として隣人たちの記録を残す佐木隆三の業績を、私たちは忘れてはならない。
この1冊は、佐木隆三が書いた今までの仕事のガイド本と思ってほしい。そしてその事件に、隣人に興味を持ったなら、佐木隆三の小説を読めばよい。この本は、そんな本である。
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