(前略)
警察捜査のレールに乗って、しゃにむに起訴し、あとはひたすら有罪に持ち込もうとするだけの検察の現状と、民衆感覚をすくいあげることができずに「自白調書」を盲信し、はじめから被告は犯行をおかした者という目で見ながら審理を進める裁判官とが織りなす“裁判劇”が、どれほど現代の日本における悲劇であるかは、いうまでもあるまい。
ウソの自白をひきだすための舞台装置=代用監獄はさらに問題にしなければならない。犯罪の再生産を生みだすカンゴクと累犯の問題も照射しなければならない。無実の人間が晴れて「無罪」をかちとったとしても、地域社会においては断罪されっぱなし(うまく裁判所をだまして罪をまぬがれたという中傷が新たに生まれる)という現実を掘りさげねばならない。「事件」によって崩壊させられたり、または離散の危機にさらされる家族の人権と名誉回復の問題にも思いをいたさなければならない。
それらをひっくるめて、戦後の冤罪史の現実を体系化する作業がいま要求されていると思える。本書は、、そのいばわ「緒言」にあたる。前にも述べたように、静岡県だけが問題なのではない。静岡県における実状は、日本の実状なのである。したがって、本書を踏み台として、戦後日本の「民主主義」の実体を洞察していただければ幸いである。(後略)
【目 次】
序
第一部 拷問捜査の系譜
1 つくられた証拠――幸浦・二俣事件
2 拷問捜査――小島事件
3 凶器の捏造――島田事件
4 新証拠――島田事件
5 目撃証言の捏造――丸正事件
第二部 捜査と鑑識
1 司法解剖鑑定
2 捜査の予断
3 県警技官の半生
第三部 隠された冤罪
1 冤罪は埋もれている
2 汚職
3 窃盗
4 道路交通法違反
5 覚醒剤
6 精神衛生法第二十四条
7 袴田事件
総括座談会 事件弁護の現場から
本書はタイトルこそ『冤罪の戦後史』となっているが、「序」や目次をみていただければわかるとおり、静岡県の冤罪の歴史を扱っている内容である。とはいえ、静岡県は特に冤罪事件が多く出ている県として有名である。特に静岡県警本部強力犯の捜査主任として数々の難事件を“解決”してきた紅林麻雄警部の名前は、冤罪史を語る上では欠かせない人物である。
戦後の静岡県警の歴史とともに、紅林警部やその部下たちがどのようにして冤罪を作り上げていったか、そのメカニズムが詳細に書かれている。紅林警部は冤罪事件の多さで名を残すようになったが、実際のところどこの県でも似たようなことが行われたと思われる。かくも警察は残酷で卑劣で、そしてあくどいことをやってきたのかということがよくわかる一冊である。
紅林警部が亡くなった後でも、静岡県では冤罪事件と思われる重大事件が続いた。特に袴田事件では、いまでも冤罪を訴えて再審請求を起こしているが、その悲痛な叫び声は裁判所に届いていない。
静岡県警は、この負の歴史をどのように捉えているのだろうか。
本書は1979年10月から1981年1月にわたって総合雑誌「新評」に連載したものをまとめたものである。ただし「第一部4 新証拠」は総合雑誌「創」1980年4月号に発表したものである。また「第一部5 目撃証言の捏造」は全面改稿されている。
佐藤友之、真壁昊はともにジャーナリストとして活躍した。死刑問題や冤罪問題などの著書もある。
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