国家による究極の権力行使でありながら長らく一切の情報が公開されることのなかった、死刑――。厚いベールに包まれたその実態に迫り、あらゆる角度から検証して新聞連載時より大きな反響を呼んだドキュメンタリーの傑作。文庫化にあたり追加取材を行って改訂増補した。(粗筋紹介より引用)
【目次】
第一章 執行の現実
宮崎勤死刑囚執行の朝
一三〇年続く絞首
独房の日々
一時間前の告知
長期拘置の理由
刑場まで付き添う教誨師
教誨師の負担
執行ボタンを押した瞬間
死刑執行起案書
執行命令書へのサインの重責
第二章 かえらぬ命
オウムの凶行
焼け残ったブルガリの腕時計
母の慟哭と姉の歌
被害者遺族に迫る刑の重み
執行後も癒されぬ悲しみ
拘置所からの謝罪の手紙
命の償い求めない人々
加害者家族の苦悩
冤罪主張を前に
長すぎる時間を生きて
死を望む死刑囚
第三章 選択の重さ
無期を破棄した理由
反省を見極める裁判官と遺族の目
極刑という結論
法廷の力を信じる
永山基準
五件の連続上告
三審裁判官それぞれの苦悩
現場を歩き検証
眠れぬ夜と判決
陪審員の決断
第四章 償いの意味
命の償いを求めた三二万人の署名
母を殺した父と子の思い
真の謝罪のあり方
無期懲役囚の終生の反省
年々遠のく仮釈放
執行を公開するアメリカ
廃止したフランス
停止した韓国
改めて突きつけられた冤罪の危険
終身刑を巡る議論
死刑制度の行方
おわりに
本書は、2008年10月~2009年6月、四部構成で計40回、連載されたものであり、2009年10月に中央公論新社より発売された『死刑』に加筆、改題したものである。
死刑についてこれだけ他方面から取材を重ねてきた連載は、今までなかっただろう。被害者遺族からの取材を読めば死刑について納得し、逆に冤罪者の取材を読めば市警について疑問を抱く。多分よほどの信念をもった読者でもない限り、連載を読むたびに死刑についてどうすべきか悩んだであろう。
死刑については、今もすべて明らかになっていない、隠された事実があるといった問題点がある。よく死刑廃止派は、そのようなことを言っている。本書は、そのようなそのような疑問に対する答えの一部となるだろう。それも、存続派、廃止派に偏らない書き方は、非常に参考となる。
本書で特筆すべきは、「償い」という点について大きくスポットを当てたことだろう。命の償いを求めた遺族、求めない遺族、命で償おうとする死刑囚、生きて償いたい死刑囚、そして生きて償うことを選択された無期懲役囚。様々な立場の人たちの生の声が載っている。これを聞いて、死刑という刑についてどう思うか。それを判断するのは読者である。もっとも、命の償いを求めない遺族が同じ人たちばかりというのは、そういう立場の人が全然いないんじゃないかと思うのは私だけだろうか。
人の命を奪う「死刑」という刑について、私たちはどう考えればよいか。先進国で死刑制度が残っている日本に住む以上、そして裁判員に選ばれ死刑という刑を言い渡す可能性がある以上、死刑という刑について考えることから逃れることはできないし、考えるべきと私は思う。
本書は、死刑を考えるうえで、ぜひ読んでもらいたい一冊である。
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