原裕司
『極刑を恐れし汝の名は―昭和の生贄にされた死刑囚たち』
(洋泉社)


発行:1998.9.10



 この本は日高夫婦という死刑囚が主人公だが、テーマは昭和というひとつの時代をターゲットにして、夕張という舞台で、人間が操られていくような壮絶なドラマを描こうと試みたものである。安易に使われる「極刑」という表現に同調するのだけは避けたかった。(中略)彼らにとって、昭和の終演は運命の悪戯、と言ってよいのだろうか。昭和を信じて生きてきた二人は、その終焉しつつある昭和に、自分の生命を賭けた。昭和の最終章に自分の生き方を預けたのだ。(帯より引用)

【目次】
第1章 夕張へ
第2章 夕張事故
第3章 放火殺人
第4章 控訴取り下げと澤地和夫
第5章 大道寺将司と小島繁夫
第6章 永山則夫
終章 すべてはなくなる


 本書は夕張保険金目当て放火殺人事件で死刑判決を受け執行された日高夫婦を中心とし、彼らを通してみることにより死刑囚とはどういう存在か、そして死刑囚のあり方や死刑に対する問題点を浮き彫りにしようとした一冊である。
 日高夫婦による事件、裁判、そして恩赦を期待した控訴取り下げ、そして執行までを描いている。またそれに関連し、警察庁広域重要指定108号事件(少年連続射殺事件)で死刑を執行された永山則夫元死刑囚の控訴審無期懲役判決、最高裁差し戻し判決に見る死刑判決の揺らぎ。また3年4ヶ月ぶりに死刑執行が再開されたことに抗議して上告を取り下げて死刑判決が確定した澤地和夫死刑囚。また連続企業爆破事件で死刑が確定した大道寺将司死刑囚、そして死刑囚からの秘密通信を一冊にまとめて話題になった『足音が近づく』の小島繁夫死刑囚(仮名)が取り上げられている。
 著者が死刑反対派であることから、どうしてもそちら側の視点で問題を取り上げている部分はあるのだが、新聞記者ということもあり取材を通した書き方になっている。筆者があとがきで述べているとおり、「感情論を述べる前に、事実を一つひとつ検証していくこと。記録者にとって、これが死刑問題では、一番大切なこと」である。もっとも、筆者の「被害者問題と、死刑執行は結びつけることはできない」という考えには全く賛成できないが。被害者の視点なくして、刑罰を語るのは問題と私は考える。
 “昭和の生贄”という書き方が示しているとおり、死刑囚への感情に対する見方がやや優先しているような気もするが、事実を見てどう思うかは読者の判断だろう。

 原裕司は東京都生まれ。早稲田大学商学部を卒業後、北海道新聞記者を経て1988年から朝日新聞記者。取材テーマは死刑問題のほか、人権問題、冤罪問題、昭和史、占領史、鉄道問題、地方分権問題、町づくり問題、教育問題、労働問題、漁業問題、都市災害、安全問題、メディア批評など多岐に渡る。死刑問題の取材は20年間に及ぶ。

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