【目 次】
第一章 こころ
運動会
傷害事件
精神病棟
火災
逃走未遂
懲戒免職
恩赦
第二章 ぼくは眠らない
拘置所
死刑執行指揮書
処刑前夜
抵抗
処刑
遺書
死刑執行人
第三章 ふりかえらない足音
スキャンダル
瀬戸の海
ただ一人の理解者
一通の手紙
家族の選択
誤判の疑い
みち
作者の坂本敏夫は1947年生まれ。元広島拘置所総務部長。法務事務官として勤続27年(刑務所(6)、拘置所(2)、矯正管区、法務省)。著書『監獄と人権』、『刑務所』など。
本巻は、牧村明夫が高校卒業後の昭和42年に刑務官となってから、27年後に退職するまでの物語である。帯にあるとおり、「"刑務所を知りすぎた男"が、人間社会の縮図・塀の中の現状とその中でくりひろげられる刑務官、囚人の人間模様を描く」ドキュメンタリー・ノベルである。
タイトルが『死刑執行人の記録』となっており、どちらかというとそちらが主眼となっているような書かれ方であるが、副題である「知られざる現代刑務所史」の方が中身と一致するのだが、売るための戦略もあるだろうから、それは仕方がないだろう。
あくまでドキュメンタリー・ノベルであるから、書かれていることの全てが真実であるとは限らない。主人公である牧村明夫は、もちろん作者である坂本敏夫を投影したものであろうが、必ずしも全てが一致するわけではないだろう。
例えば第二章で語られている死刑執行の場面である。これは平成5年(1993年)3月26日、広島拘置所で死刑執行がなされたと書かれているが、実際に3月26日に執行されたのは仙台と大阪であり、広島ではない。ここで執行される死刑囚も、架空のものと思われる。このことからも、この作品があくまで“ノベル”であることを裏付けている。
だからといって、ここで書かれていること全てが嘘、というわけではない。あくまで舞台や人物を架空のものにしているだけで、実際の情景は本物であろう。刑務所のなかにいたからこそ、書ける真実というものがある。
刑務所という狭い、特殊な空間で繰り広げられる足の引っ張り合い、権力争い。刑務所とは更生の場所ではないのか。様々な問題点を提示しつつ、ノベルの形で紹介することにより、今まであまり語られることの無かった刑務所の世界を描きだしている。
裁かれた人はどうなるのか。刑務所とはどういうところなのか。実際になかにいた人だからこそ書ける、ドキュメンタリー・ノベルである。
牧村は最後、「底辺で苦しむ人たちを一人でも多く救ってあげたい」と語っている。現在の社会は底辺で苦しむ人を産み出すばかりである。そして刑務所は、そんな彼らの一部の人たちのたまり場であり、中にはいつまで立っても抜け出せない人もいる。刑務所が少しでも更生の場として機能することができたら。そして、再犯率を少なくすることができれば。作者のこれからを期待したい。
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