福島章『殺人者のカルテ 精神鑑定医が読み解く現代の犯罪』(清流出版)

発行:1997.12.18



 新しい形態の犯罪に見えるものも、犯罪心理学的に見るとまったく新規な変わりものではなく、昔からあった類型の一変形にすぎなかったことがわかる。したがって、突如起こったとんでもない事件も、従来の知識や経験と照合すると、ある程度の予測が可能であった。このようにして、過去の知識・経験から新しい事態の予測と解明が可能だからこそ、犯罪精神医学や犯罪心理学という学問が意味をもつのであろう。(帯より引用)

【目次】
Ⅰ 思春期と殺人
   さかきばら君のカルテ
   梅川少年のカルテ
   少年死刑囚のカルテ
   思春期危機の行方
Ⅱ 宗教と殺人
   地下鉄サリン事件を読む
   「正義」の殺人者たち
Ⅲ 多重人格と快楽殺人
   多重人格という不思議
   快楽殺人者のファンタジー
Ⅳ 現代社会と殺人
   現代型犯罪
   攻撃行動の社会心理学
   親を殺す人々

 福島章は1936年、東京生まれ。東京大学大学院博士課程修了、医学博士。専攻は精神医学。現在は上智大学教授(執筆当時)。著書多数。
 学会誌や専門誌等に発表したものをまとめたもの。複数の書誌で発表されたものを、無理矢理カテゴリ化した印象を受けるのは仕方がないか。  副題が「精神鑑定医が読み解く現代の犯罪」となっているが、幾つかの事件を鑑定した結果をまとめたものであり、「現代の犯罪」まで言及されているかと言ったら疑問。個々の事件から、もう少し他の事件へフィードバックし、体系化してくれれば、もう少し面白くなったのにとは思う。
 殺人者の素顔に迫っているのだろうが、正直言ってこれらの鑑定でどこまで迫れるのか、疑問でもある。実際に殺人を犯している時と、既に逮捕されて興奮状態が収まっている時に違いが感じられるため、精神医学が犯罪心理の謎解きにどこまで迫ることができているのか、不明な点が多いのだ。実際の裁判においても、複数の精神鑑定医が異なる判断を示す場合も有る。それだけ難しい学問なのだろう。もっとも、それが裁判の判決に大いなる影響を及ぼすという点については、少々不満があるのも事実だが。
 精神鑑定医が重大事件についてどのような鑑定を下すか、という点では面白い一冊かも知れない。まあ、あくまで作者の視点でしかなく、これが精神鑑定医の総意ではないことを心得ておく必要はあるだろうが。

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