犯罪地獄変編集部『犯罪地獄変』(水声社)


発行:1999.1.15



 津山30人殺し」から「酒鬼薔薇聖斗」まで!日本のメディアを駆け抜けた犯罪を本音で論じる全く新しい形の犯罪読(毒)本。

(表表紙より引用)


 犯罪を語るときは、どうしても型式ばったものか、オブラートに包んだ内容になってしまうものが多い。ふざけたことを書いてしまえば読者からの抗議があるだろうし、間違ったことを書いても同じだ。特に被害者、加害者を揶揄するようなことを書けば、様々な方面からの激しいバッシングが予想される。「被害者に対する冒涜だ」「そのような嘘を書かれては加害者の名誉毀損だ」など、色々な反発があるに違いない。いずれにしても、“本音”で書くにはかなりの覚悟と度胸が必要となるだろう。
 ところが本書は、そんなバッシングなど頭にないかのように、本音で犯罪を語っている。“本音”と書いたのだが、犯罪学、心理学などからのアプローチは全くない。いってしまえば、犯罪を外から見た野次馬たちの戯言だ。やいのやいの、騒いでいるだけである。被害者はなぜ殺されたのか、加害者とどういう関係にあったのか、加害者の生い立ちは、など野次馬が興味を持っていることを、根拠のない噂や自らの体験談などと絡めながら話しているだけである。“見識のある”読者からみたら、「何ふざけたことを書いているんだ」と怒り出すかもしれない。
 もっとも、そのような“本音”から、ひとつの事実が見えてくることも多い。特に第一部にある神戸連続児童殺傷事件の「報道狂想曲」などは見所満載だ。「さあゲームの始まりです」から始まる酒鬼薔薇の挑戦状にあるとおり、テレビ・週刊誌・新聞紙などのすべてのマスコミにとって、様々な推理を垂れ流す何でも有りの“ゲーム”が始まった。被害者のことなど、何も考えずに。新聞記者だけではなく、したり顔の学者や識者、そして名もなき「目撃者」を巻き込んで。
 他にも数多くの事件について、執筆者が半分ふざけた調子で本音をぶちまける。そこには被害者への祈りも、加害者への怒りも何もない。対岸の火事について、ただ騒ぐだけ。ただ、その姿こそが、いわゆる世間の人たちの姿そのものだといえる(世間の人“全員”と言っているわけではない。念のため)。劇場型犯罪という言葉に惑わされてはいけない。身近で起きていない犯罪は、世間の人たちにとってすべて劇でしかない。そのことを本書は教えてくれる。
 第二部でお薦めは「実録犯罪ムービー総まくり! クライム・ビジュアル・ショック!」。実録犯罪ものの映画、テレビ作品で入手可能なものを駆け足で紹介している。

 執筆者は以下。
 アイカワタケシ、植地毅、大久保太郎、大西祥平、鹿子保之、ギンティ小林、高山諒、ひかる、藤原章、矢代丸治、吉田豪。

【目 次】
第一部 特集・神戸連続児童殺傷事件、「報道狂騒曲」
 少年の悪意の波紋、酒鬼薔薇狂騒曲のすべて―「黒ビニール男」から「キラー・アンド・ローズ」まで、暴走報道総まくり!
 101匹酒鬼薔薇大行進―犯人当て「競争」の「狂騒」
 トーク・ダーティー・トゥ・酒鬼薔薇―容疑者逮捕後のコメント集
 サカキバ・ライブラリーの全て―少年の心の闇を育んだ作品とは?
 酒鬼薔薇事件権力謀略説―真犯人は未だに巷を徘徊、背後にはCIAの影?!
 神戸連続児童殺傷事件・新聞雑誌見出し集―消費される「酒鬼薔薇聖斗」

第二部 メディアを駆け抜けた記録と記憶に残る犯罪
伝説化する犯罪
 「津山30人殺し」、都井睦雄の伝説
 三菱銀行立て篭もり事件、大薮春彦と「ソドムの市」
 勝田清孝の「冷血」
 臨月若妻ホラー殺人、「午後3時半の男」
 悪魔祓いバラバラ殺人事件、「パンツを脱いだ人情」の惨劇
 新興住宅地のヘルハウス、女祈祷師大量殺人事件
 日本版アンソニー・ウォン、練馬・一家5人殺しの全貌!
 井の頭公園死体遺棄事件、「あの公園には何があるのか?」
 新宿西口バス放火事件
茶の間を震撼させたメディア・クライム
 幼女連続誘拐殺人、Mの真実
 ロス疑惑本の素晴らしき世界
 豊田商事会長惨殺事件、TV公開処刑発ビートたけし行き
 グンゼYG血糊付き、深川通り魔殺人事件
 ニセ札作りの童話作家、宝石商殺し
 童貞高校生と竹藪二億円放置騒動
 実録犯罪ムービー総まくり! クライム・ビジュアル・ショック!
ガンズ&クライム! 銃器と犯罪
 エレキの鉄板噴飯記、元自衛官警官刺殺事件
 パニック! トカレフ男大暴走
 ロシアン・ル−レット・イン国分寺
がっこの、じけん
 教育界に勃起する男樹! 戸塚宏はスパルタンXの夢を見るか?
 中学生肉親惨殺事件 秘められたアイドル・レイプ計画
 トリプル教師の不倫殺人トライアングル!
 間違いだらけの受験戦争〜女装、身代わり大作戦
 中学校大パニック! 刃物男乱入に「いじめ」の影
 M大学不正入学時件の渡辺先輩とボク
おとことおんなの事件
 アリ・カバキの忘八武士道inローマ
 大学名門スポーツ部レイプ疑惑と帰宅部の恐るべき関係
 ドクトルGと麻原彰晃、中学生が見た「オウムの犯罪」
 犯罪者の「声」、イリーガル&お騒がせ音源カタログ
 懲役20年! 元爆弾犯に聞く「塀の中の生活」
 ある自転車泥棒の告白




<リストに戻る>