村野薫『事件のカンヅメ』(新潮OH文庫)


発行:2000.10.1



 事件ウォッチャー、村野薫が三面記事などに秘められた数々のトホホな事件を掘り出し、光を当てる。最初の内こそ、現金投げ込み事件、尋ね人欄など、当事者から見たら深刻ではあるが、他人から見たら確かに「トホホ」な事件が語られている。ところが途中から、誘拐事件(吉展ちゃん誘拐殺人事件、新潟デザイナー誘拐殺人事件他)、大量殺人事件(アメリカ銃乱射事件、少年ライフル魔事件他)、脱獄事件(死刑囚脱獄事件他)、ハイジャック事件(日本赤軍日航機ハイジャック事件他)、毒殺事件(帝銀事件他)、保険金殺人(和歌山毒入りカレー殺人事件他)など、数々の重大事件がいかにも三面記事のコラムのように紹介されていて侮れない。実際は重い、重い事件であるが、村野薫の筆は冴え、三面記事であるかのように軽いタッチで書かれている。とはいえ、軽いのはタッチだけであり、論調までを軽くあしらっているわけではない。その書き方の上手さが村野薫である。
 短い文章の中に要点を詰め、全体を疎かにすることなく一部分を照らす作業は大変だと思うが、村野薫の書き方を見ると、いともそれが簡単に出来ているから不思議である。
 犯罪についてのエッセンスがつまった1冊。ミステリファンにも楽しめるかも知れない。現実の事件は、ミステリのネタの宝庫である。

 目次は以下。


1 カネは天下の拾い物―正しい"拾得者成金"への途
2 カネを棄てるひと拾うひと―現金投込み・バラ撤き事件の真実
3 「尋ね人欄」の人びと―行間にみる事件の文脈
4 「求人広告欄」の使い方―甘い蜜で人を募る犯罪者たち
5 尋ね人・求人欄の達人―「かい人21面相」と森永事件
6 芽むしり児うちの女たち―嬰児殺しとコインロッカーの不思議な相性
7 赤ちゃん泥棒の女たち―子は愛のカスガイか小道具か?
8 誘拐犯たちの身代金事情―本音と建前のバランスシート
9 身代金奪取に賭けた男たち<その一>―黒沢映画『天国と地獄』と誘拐事件
10 身代金奪取にかけた男たち<その二>―誘拐犯罪「工夫」と「錯誤」の裏面史
11 身代金奪取にかけた男たち<その三>―誘拐事件に登場した“電脳”
12 進化する強盗たち―エイズに便乗した犯罪あれこれ
13 夜間金庫の怪盗たち―詐欺か窃盗か、コロンブスの悪卵
14 放火犯たちのエレジィ―ひとは何故に放火するのか?
15 塀を越えた囚人たち―見果てぬシャバに愛をこめて
16 脱獄の手口と秘密通信―塀の内・外を結ぶタイトロープ
17 大量殺人・銃乱射犯たちの焦燥―ただ乱射すること、それがメッセージだ!
18 乱射生徒たちの報復戦争―銃を乱射することの必然と偶然
19 検証・四つの殺人事件―日本に純粋“銃乱射犯”は存在するか?
20 迷走するハイジャッカーたち―空に賭けた乗っ取り犯たちの夢と悔恨
21 やさしき毒殺魔たち―凶器としての毒薬と犯人の心性
22 「仮面」犯たちの舞台裏―ウラミ・ツラミから自作自演劇まで
23 女と毒薬と保険金<その一>―夫殺しにはしる妻たちの手練主管
24 女と毒薬と保険金<その二>―毒をあやつる自家中毒者たちの陥穽
25 京都とミステリー小説―事実とフィクションを架橋する都の“魔界”


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