三國隆三『子どもを殺すな! 犯罪史上の酒鬼薔薇たち』(展望社)


発行:1997.11.4



(前略)
 これまでも事件の全容を解明するには情報が不足していた。伝えられた情報には、少年の語った口調や前後の文脈が不明だし、警察のリークによっては意味も重さも違ってくる。それに、なにより伝聞をふるい分けせねばならないので、読者はその点を含んで、読んでいただきたいと思う。まずは序章「タンク山は見ていた」で、これまでの報道を整理することから始めてみよう。
 日本中に大きな衝撃を与えた神戸小学生殺人事件は、これまでは主として神戸の一地域のショッキングな事件として取材されてきた。しかし、世界的な視野でみれば、必ずしも特異な事件とはいえない。声明文の中身がやたら挑戦的なのは、むしろ自分の存在を認めてくれと言う自己顕示の反映とみてよく、それは連続殺人鬼といわれるものの特徴なのだ。そこでPART1「首を切り落とすということ」(第1〜3章)では、これまで特異な犯罪人格が引き起こしたバラバラ殺人の中から、主として首を切断した事件を取り上げ、神戸小学生殺人の特徴を浮き彫りにしてみよう。その際、少年自筆の挑戦状、犯行声明や作文がよりどころになるのはもちろん、その後のルポルタージュや心理学および精神医学の専門家からのからの(ママ)アプローチなども参考にしたい。
 これまで、この犯罪をグローバルな視点から取り上げたものは見あたらない。読者の中には、少年Aは、男の子と女の子を殺し、ほかに少なくとも四人の女の子たちを傷つけた異常なケースとはいえ、世界の猟奇的な事件とは、なにか次元が違うのではないかと思われる方がいるかもしれない。しかし、少年が性的衝動から一連の犯行におよんだ疑いが強いことが精神鑑定の分析などで明らかになった以上、グローバルな視点から比較検討することは、参考になるはずである。
 ちなみに、法律的には二十歳未満が少年である。少女も少年であり、女子少年という。彼らと彼女らが犯すのが非行(少年犯罪)で、二十歳以上の成人が犯すのが犯罪である。
 いま、子どもたちが見えない時代である。少年犯罪の凶悪化、低年齢化が言われて久しいが、最近は内外で痛ましい少年同士の間の殺人事件が増えている。PART2「子どもが子どもを殺すとき」(第4〜6章)では、そうした頻発する少年犯罪の背景と少年たちの心の奥底に潜むものを探るために、豊富な具体例を挙げてみた。
 全体的にいえば、まだ日本は「子ども天国」であるが、世界的にみれば、子ども受難の時代が始まっている。PART3「オオカミどもよ、くたばれ!」(第7〜9章)では、これら危機的な諸相のなかから、日本でも最近頻発している誘拐など子どもを標的にした内外の凶悪事件や、国家的レベルの犯罪を例にとって概観してみようと思う。そして、これら全十章を通して、神戸小学生殺人事件とは何だったかを考えてみたい。
(後略)

(「はじめに」より引用)


【目 次】
序 章 タンク山は見ていた

   PART★1 首を切り落とすということ
第1章 快楽から首を切る殺人鬼
第2章 バラバラ殺人の異端児
第3章 少年は異常か、必然か?

   PART★2 子どもが子どもを殺すとき
第4章 小中学生の犯行
第5章 高校生ほかの犯行
        1 少年通り魔事件とコンクリート詰め殺人
        2 連続リンチ殺人事件
第6章 少年は異常か、必然か?
        1 ジェームズ・バルガー事件ほか
        2 犯罪人格の少年時代

   PART★3 オオカミどもよ、くたばれ!
第7章 宮崎勤連続幼女誘拐殺人ほか
第8章 世界の小児性犯罪者の牙
第9章 今、子どもの“いのち”が危ない!
        1 子どもを喰う大人たち
        2 人道上許されざる行為


 タイトルや目次を見ていただければわかるとおり、何をやりたいかわからない一冊である。神戸小学生殺人事件にアプローチしたいかのように見えるが、結局は内外のバラバラ殺人や少年事件を並べただけに過ぎない(ついでに書くならば、これぐらいだったら今はインターネット上に載せられているものの方がよっぽど詳しい。まあ、執筆当時のことを考えればそこまで書くのは気の毒か)。少年Aの内面を探ろうとする言葉も、ほとんどが引用文献からの言葉を主にしており、自分の言葉はごくわずかである。
 特にPART3は、神戸小学生殺人事件とは何の関係もない、少年を狙った事件を並べているだけである。未成年誘拐殺人事件、臓器移植問題や北朝鮮による拉致事件など、ここで取り上げる意味はあるとは思えない。
 “犯罪史上の酒鬼薔薇たち”という副題があるが、結局は事件に便乗して出版された本であり、読む価値は全くない。

 作者三國隆三(みくにりゅうざ)は1928年生まれ。青森県出身。東京大学卒業、社会教育専攻。講談社に入社し、学芸・美術・音楽など書籍、全集、事典などの編集者を経て文筆生活にはいる。あすな峡名義でも著書を出している。
 『誘拐トリックス』『だませ!――ニセモノの世界』『消えるミステリ』などの著書がある。
 二三冊読んだことがあるが、結局はあるテーマに沿ってリストアップし、ちょこっと書くだけ、という印象しかない。

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