ページを開くと、いきなり死刑囚独房の写真が飛び込んでくる。さらに絞首台、絞首縄、開いた床。絞首された死刑囚が絶命するのは最短で4分35秒、最長37分、平均14分33秒。天井からぶら下がる一本のマニラ麻縄には、何人もの死刑囚の脂を吸ってぬらぬら光っている。
この本は、日本における死刑白書として書かれたものである。章立ては以下。
序 章 忘れられている死刑囚
第一章 死刑執行まで
第二章 誰が死刑囚になるのか
第三章 誤って殺される人たち
第四章 閉ざされる道
第五章 死刑廃止は是か非か
第六章 一人の生命は全地球より重し
第七章 世界の死刑白書
終 章 今日的課題、死刑の廃止へ
1982年に書かれた本だが、世界の状況はともかく、日本の状況はそれほど今と変わっているわけではない。やや古いが、充分参考に値する本である。
ただ、死刑廃止論者である前坂俊之が著者であるため、どうしても死刑廃止論に偏ってしまうのは仕方がない。ただ、その反対論を支えるものが「冤罪」が中心になっているため、その部分に多くのページが割かれてしまっている。確かにこの本が書かれた時期は、財田川事件、免田事件、松山事件が再審開始決定となっている。冤罪論が中心になってしまうのは仕方がない。とはいえ、ここまで「冤罪」についてしつこく書かれると、逆に偏った印象を与えてしまっており、そういう意味では損な作りになっている。これでは「確信的な重大事件犯罪者」に対する処罰はどうするかなどの議論が全くなされない。もっと広く死刑賛成論、廃止論の根拠を取り上げ、その上で廃止論を繰り広げるべきだと思う。
前坂俊之の著書は他にも何冊かあるが、いずれも「冤罪」について多くのページが割かれている。これだけで死刑賛成論者が納得するとは思えない。もっと多角的な死刑廃止論を語るべきではないだろうか。
なおこの後、島田事件が再審無罪となったが、その後、死刑確定囚の再審請求が取り上げられたことはない。一時は開いたかに見えた再審の門であるが、再び狭くなってしまったといえる。
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