片岡健(編集)『絶望の牢獄から無実を叫ぶ 冤罪死刑囚八人の書画集』(鹿砦社)


発行:2016.2.15



(前略)
 さて、ここで問題は、死刑囚が雪冤を果たした先例が数える程しかない中、実際にはその陰で冤罪の死刑がどれほど存在するのか、ということです。冤罪問題に関心がない人ならともかく、この本を手に取るような人なら、それがゼロだとは思わないことでしょう。ただ、多いか少ないかについては、人によって認識に差があるだろうと思います。
 編者はここ数年来、冤罪の疑いのある様々な事件を取材してきましたが、次第に死刑の冤罪事件は世間一般の認識よりはるかに多くあるのではないかと思うようになりました。実際に何件か、取材した結果として冤罪を確信した死刑事件もありました。鹿砦社の松岡利康社長から冤罪をテーマに一冊の本を製作してみないかという話をもらった時、個別具体的な死刑の冤罪事件を紹介する本をつくってみたいと思ったのはそんな経緯からでした。
 そして制作された本書では、編者が無実だと確信する計八人の死刑囚を取り上げています。死刑の冤罪をテーマにした本はこれまでにも色々ありましたが、本書の特徴は、冤罪死刑囚たち本人の書画を紹介していることです。
(後略)

(「はじめに」より一部引用)


【目 次】
はじめに
第一章 飯塚事件 久間三千年
第二章 埼玉愛犬家連続殺人事件 風間博子
第三章 三鷹事件 竹内景助
第四章 帝銀事件 平沢貞道
第五章 鶴見事件 高橋和利
第六章 三崎事件 荒井政男
第七章 山梨キャンプ場殺人事件 阿佐吉廣
第八章 波崎事件 富山常喜
<参考資料> 飯塚事件・久間三千年氏に対する死刑執行関係文書
おわりに


 編者の片岡健は1971年、広島県生まれ。早稲田大学卒業後、フリーライターに。新旧様々な事件の知られざる事実や冤罪を独自研究で発掘している。広島市在住。(編者紹介より引用)。
 片岡健はあくまで編者という立場をとっており、著者はそれぞれの死刑囚となっている。本人や妻の手記、書簡、交流録などが収録されているからである。他に三鷹事件では、三鷹事件再審を支援する会世話人の大石進が、山梨キャンプ場殺人事件では元毎日放送記者で関西大学社会学部教授の里見茂が特別寄稿している。

 確かに重大事件って初期の報道の印象が強く頭に残るのだが、いざ起訴されたり裁判が始まったりすると、当時の報道の内容の一部が違っていたり無くなっていたりすることが結構ある。〇〇も未解決なんていかにも記事の容疑者が犯したような書き方をしながら、いざとなると無関係であることが明らかになっても、そのことについて訂正することは全くない。他社を差し置いてスクープを取るため、興味を引くため、色々な手法を使っているが、こういう報道が誤った印象を与えていることは事実。いつになったら新聞や週刊誌、雑誌の記者の取材・報道傾向が変わるのだろうか……無理だろうなあ。その記事のおかげで、悪いイメージが先行している結果を与えているのは問題だろう。

 死刑囚で冤罪が認められて釈放されたのは4名いる。他にも冤罪ではないかと言われている死刑囚はいる。現在釈放中の袴田巌さんもそうであり、「はじめに」ではそのことが触れられている。また「おわりに」では名張毒ぶどう酒事件の奥西勝元死刑囚の死亡について触れられている。
 ただ、どうせ本をつくるのなら、もっとマイナーな死刑囚を取り上げてもよかったんじゃないか、という疑問はある。今でも活動をしている人たちには悪いが、帝銀事件や三鷹事件は新聞などに取り上げられることも多く、単独で著書を出版されている。佐々木哲也、村松誠一郎、長勝久、浜川邦彦などの死刑囚には取材できなかったのだろうか。
 帯に「無実の男性を処刑した裁判官・官僚・国会議員への直撃取材も敢行」と書かれているので興味深かったのだが、実際に行っているのは飯塚事件のみ。それにまともな回答は還ってきていない。そりゃ当たり前だよなと思ってしまう。労力がかかっているのはわかるが、守秘義務だってあるのだし、答えが返ってくると思う方が間違いだろう。
 申し訳ないのだが、これらを読んで完全に無罪だろうなあと思わせるのは、帝銀事件、波崎事件ぐらいではないだろうか。三鷹事件、三崎事件は無罪の可能性が高いと思うが……。山梨キャンプ場殺人事件だって、横領で起訴されていることを載せないのは、ちょっとアンフェアだと思ってしまう。

 労力の割に、身内に甘い印象を与えているのがマイナス。もうちょっと突っ込んだところを書いてみてもよかったんじゃないだろうか。

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