本書は、法廷の中の人間ドラマを求めて、刑事裁判を追ったものである。結果的に二十三の事件を扱うことになった。東京地裁、同高裁、浦和地裁川越支部、横浜地裁、同小田原支部で開かれた(あるいは現在進行中の)裁判の傍聴を主軸としながら、周辺の取材を加えてまとめた。取材は1997年初頭からスタートし、1998年3月末の構成段階まで続けた。(「はじめに」より)
我々は新聞、週刊誌で事件、そして犯人を知ることになるが、その後どういう過程を辿ったかを知ることは少ない。せいぜい裁判の結果を新聞で読んで、「ああ、あんな事件があったな」と思い出す程度だ。それほど時の流れは速く、マスコミの垂れ流す情報は多すぎる。それと同時に、裁判というものの長さを感じる。新聞などでは極悪非道な犯人像として描かれることの多い被告人が、実はやむにやまれぬ理由があった、実際は愛情豊かな人物だった、実は被害者にだまされたなど、事件の実像と違うことはかなり多い。裁判所は一般人をできるだけ関与させないようにしている。法廷に入れる人数を制限しているのもその一つだ。そしてまた、マスコミも裁判を追い続けることはまれである。すでに犯人が分かっている事件よりも、より刺激のある現在の事件を優先するからだ。しかし、被告人には被告人の事情があり、被害者には被害者の事情が存在する。
本書は殺人、詐欺、恐喝、脅迫、監禁、傷害、そして強姦、強制わいせつ、痴漢などの裁判を追ったルポである。新聞や週刊誌に載ったことと実際がいかに違うか、それを知るには裁判所に通うしかない。著者はフリーランスのノンフィクションライターで、刑事裁判、ビジネス社会から新宿歌舞伎町まで人間ドラマを追う記事を週刊誌、月刊誌などに多数執筆している。また、97年秋からミニコミ月刊誌「法廷レポート」を主宰している。
ここに載っている数々の事件のうちのいくつかは、我々の記憶の中に残っているものもある。しかし、実際の新聞記事で読んだ記憶と違っている部分が多いのではないだろうか。また、痴漢などの強制わいせつ事件などについてはいつ同じ状況に巻き込まれるかわからないのである。
法廷には、新聞、週刊誌などで報道されないドラマが存在する。もっとも、ドラマと記すのは被害者と加害者にとって失礼なことかもしれない。しかし、我々は知る必要がある。被告も人間であるということを。この本は、そんな本である。
収録事件は以下。なお、本書内で出てくる登場人物は、全て仮名である。
<殺人事件>
慶応大卒SM倶楽部経営者コンクリート詰め殺人事件
強姦服役囚による日本たばこ産業OL報復殺人事件
関越自動車道キャバレーホステス惨殺事件
月々40万円近くを支出した借金妻の嬰児殺害事件
不倫妻の「別れてくれない夫」保険金殺人事件
<強姦事件>
200件住居侵入した「平成の暴行魔」強姦ゲーム事件
60歳男の小学生姉妹・桃色マッサージ「援助交際」事件
ヤクザを名乗った法学部卒ストレス男の強姦事件
女子学生に三択問題を迫ったスタンガン強盗強姦否認事件
体重100キロ泥酔男による強姦致傷否認事件
<強制わいせつ事件>
リストラ予備軍の女子高生10秒間強制わいせつ事件
若きエリート室長の独身OL強制わいせつ事件
証券会社課長の「追っかけ」強制わいせつ事件
欲求不満同棲男の「金縛り」強制わいせつ事件
痴漢ビデオ所持男の強制わいせつ否認事件
大手コンピュータ技術者・強制わいせつ否認事件
<詐欺・恐喝事件>
盗聴マニア病院職員の連続声色詐欺・準強姦事件
慶応幼稚舎・聖心「お受験」縁故入学詐欺事件
「生理日」ホステスのソープ嬢傷害・恐喝事件
元愛人による三菱地所会長「隠し子」恐喝事件
<脅迫・監禁・傷害事件>
日本テレビ郵便物爆発に便乗したファックス脅迫事件
パチンコ中毒者の彩太ちゃん人質立てこもり事件
逆転無罪だった不倫機長のスチュワーデス「暴行」事件
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