菊田幸一『死刑廃止を考える』(岩波書店 岩波ブックレットNo.306)


発行:1993.7.20



 死刑制度については、廃止論者と存置論者が長い間論争してきています。そこで存廃論はこんにちでは、もはや論じつくされており、水かけ論だとか、たんなる感情論だという意見もあります。しかし、わたくしは、そうはおもいません。わたくしは、死刑は「悪」であるとおもっています。その悪である死刑は一日もはやく廃止しなければなりませんし、現に、わが国にその死刑制度がある以上は、なぜ死刑が悪なのか存置論者を説得する必要があるとおもっています。
 死刑の問題は人の生命という、人間の根源の問題ですから、たんなる感情論でかたづけられてはならないのです。(後略)

(「はじめに」より引用)


【目次】

はじめに
世界の動向
日本の現状
存置論には根拠がない
誤判は避けられない
世論をどう考えるか
廃止運動の歴史と現況
おわりに
<資料・参考文献>

 死刑廃止派の第一人者である菊田幸一が、死刑廃止についてコンパクトにまとめた一冊。小冊子ということもあり、量は少ないのだが、かえって余計なことが書かれておらず、スッキリと読むことができるのは皮肉か。
 いつものことながら、死刑廃止の理由について個別的に挙げている。  まあ、ワンパターンな議論としか言い様がない。昔からいわれていることでもあり、同じような反論が繰り返されている。一つ、誤判は死刑に限らずどんな裁判でも取り返しが付かない。一つ、死刑は合憲であるという判決である。一つ、死刑を廃止したら、悪質な犯罪が減るとは思えない。一つ、更生しなかった場合の責任を誰が取るのか。事実、再犯で死刑となった人物もいる。それは、誤判で死刑が無罪となった人数よりも多い。一つ、犯罪応報論から見るとまったく合致しない。
 正直言って、私は堂々巡りだと思っている。どっちが正しいかの結論なんて出るはずがない。
 死刑廃止論者は相手が納得しないと、必ず「世界の流れに反している」などと言い出す。アメリカやヨーロッパがイランを攻めたら、日本も攻めるつもりかね。イラク戦争にはお金を出すだけで参加せず、日本はさんざん攻められたが、これは世界の流れに反しているから日本も軍隊を出すべきだったとでも言うつもりかね。自分の都合で「世界の流れ」を持ち出してほしくないものだ。しかも日本の世論には従う必要がない、世界の流れには従えって、日本は海外から遠隔操作されていればいいとでもいうつもりか。
 「人権意識が足りない」などと言い出す人も多い。自分の意見が通じないと必ず持ち出す理論だ。民族差別や宗教差別が平気な人たちがよく言えたものだ。自分の都合で人権なんて言う言葉を出さないでほしい。こういう言葉を出す時点で、相手を見下しているこということが何故わからないのだろう。そしてその態度が、かえって自分たちの論を蔑みの対象としていることを。
 死刑存置の世論が、虚構の上に成り立っているというのなら、その虚構を徹底的に暴いたら? 色々と本に書かれているけれど、それを読んでも自分は死刑廃止論に賛成できないけれどね。
 菊田幸一の本は何冊か読んだけれど、自分の意見にだけ固執して、簡単な議論すらできないという気がしてならない。まあ、別にいいけれど。

 菊田幸一は1934年滋賀県生まれ。中央大学法学部卒業後、明治大学大学院法学研究科博士課程修了。1963〜64年、カリフォルニア大学犯罪学部留学。1990年、コロンビア大学客員教授。現在(出版当時)、明治大学法学部教授。法学博士。犯罪と非行に関する全国協議会(JCCD)事務局長、死刑執行停止連絡会議代表世話人。

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