逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)
独ソ戦が激化する一九四二年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために……。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?(粗筋紹介より引用)
2021年、第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞。加筆修正のうえ、2021年11月、早川書房より単行本刊行。
北上次郎、鴻巣友季子、法月綸太郎、清水直樹の4人全員が満点をつけたということで話題の一作。不勉強なことに当時のソ連に女性だけの狙撃訓練学校、女性だけの狙撃部隊があったなんて全然知らなかった。この設定だけでも興味をひかれたが、さらに中身も女性からの視点ならではの戦争のリアル、残酷さを浮き彫りにしており、骨太の作品に仕上がっている。
舞台はモスクワ近郊のイワノフスカヤ村、中央女性狙撃兵訓練学校分校、ウラヌス作戦、スターリングラード攻防戦、ケーニヒスベルクの戦いを通し、セラフィマはただの田舎村の少女から、超一流狙撃兵となり、自らの目的を果たすために戦い続ける。
全てが実際にあったこと。戦争の悲劇と愚かさをまざまざと見せつけながら、そこに架空の女性たちを交えることで、壮大な物語を作者は積み立てた。それでいながら、所々でラノベのような設定が出てくるところがかえって面白い。新人の筆とは思えないぐらいの完成度の高さと、構成力の高さである。
戦争は何もかも奪い去っていく。そして男は女を道具としてしか見ない。そんな当時の情勢に立ち向かう女性たちの強さとはかなさが、よく書かれた作品だと思う。確かにすごかったわ。直木賞候補になったのはびっくりしたしまだ早いと思うが、一読の価値は絶対にある作品であった。
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