作品名 |
T型フォード殺人事件 |
初 出 |
1972年6月20日、講談社より書き下ろし刊行。 |
粗 筋 |
隠居した元貿易会社社長・泉の屋敷に、娘を含む7人の男女が集まった。泉の様々なコレクションの中から、今日は1924年製T型フォードが披露された。元々は疋田医師の祖父が往診に使っていたものだった。そして疋田は、1年前に聞いた伯母から聞いたという、昭和2年の殺人事件について話を始めた。それは46年前、伯母・麻里子の婚約者が殺され、鍵のかかったT型フォードの中で発見された密室殺人事件だった。運転手だった疋田家の書生が犯人として捕まり、無期懲役の判決が確定したが、それは麻理子の嘘の証言によるものだった。そこで7人による密室殺人の謎を解き明かすゲームが始まったが、再び殺人事件が発生する。
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感 想 |
著者唯一の長編本格探偵小説。他作品と同様、過去の描写は緻密であり、当時の様子が目に浮かぶようである。この作品の面白さの一つはそこである。肝心の殺人事件の方は、密室トリック自体こそ大したことがないものの、なぜT型フォードの中に死体を押し込めたのかという謎の方は面白い。さらに現実の世界でも殺人事件が発生するという凝った構造を、この短いページ数で収めたのはお見事といってよい。現代ミステリファンの一部が喜びそうな設定をさりげなく入れているところも、巧い造りである。
著者にしては珍しい探偵小説だが、その方面でも十分な才能を持ち合わせていたことがわかる作品。他にも読んでみたかった。
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備 考 |
新鋭推理作家書下しシリーズの1冊として出版された作品。他に藤村正太『脱サラリーマン殺人事件』、西村京太郎『名探偵が多すぎる』、大谷羊太郎『旋律の証言』が出版されいる。黒木曜之助、夏樹静子、森村誠一、豊田有恒がラインナップに上がっていたものの、シリーズは中絶。
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