名探偵・星影龍三全集―II 青い密室(出版芸術社)



初版:1996年8月20日
定価:1,600円(当時)
解説:北村薫


【収録作品】

作品名
白い密室
初 出
『宝石』昭和33年1月
粗 筋
 雪が降り止んでいた午後九時半、女子医学生の佐藤キミ子が座間教授の家を訪ねると、ドアから出てきたのは雑誌編集長の峯だった。家の中には、教授の刺殺体。凶器は無く、明らかに他殺だった。しかし庭に残されていたのは峯とキミ子の足跡だけ。家の中には他に誰もいなかった。死亡推定時刻の午後九時には、二人ともアリバイがあった。雪に囲まれた密室殺人の謎を、星影龍三が解く。
感 想
 密室三部作の一作。昔は三部作で一番好きだったはずだったんだけどなあ。再読すると、どうもトリックが呆気なさ過ぎるというか。それと描写に前半と後半のギャップがあるため、トリックが解明されても今一つ面白みに欠けるのである。
備 考


作品名
薔薇荘殺人事件
初 出
『宝石』昭和33年8月
粗 筋
 神奈川県の真鶴にある薔薇荘は、小栗虫太郎の黒死館を模していた。薔薇荘には様々な大学の学生たちが下宿していたが、そこで連続殺人事件が発生する。事件の謎を星影龍三が解く。
感 想
 解答を正しく導き出している人がいることから、読む人が読めば犯人までたどり着くのだな、鮎川哲也はフェアに問題を出しているのだな、と感じた。ただ、それだけ。書きようによってはいくらでも長くできそうな題材を惜しげもなく使ってしまうところが、鮎川なんだろう。それが濃縮されるのではなく、物語としては薄味に終わってしまうのが残念なところだが。
備 考


作品名
悪魔はここに
初 出
『宝石』昭和34年1月
粗 筋
 豪雨の山荘で開かれた牧良介の61回目の誕生祝。推理小説家の私、碁敵の猪谷老人、甥の丑太郎と悟、同じく甥で山荘の管理人である海彦と妻のよし子、それに二十年ぶりに対面した姪の絵馬子が集まった。次の日の朝、殺害された良介の死体が発見され、蒐集していたおとの面(お多福の面)の1個だけが逆さまに掛けられていた。がけ崩れのため、警察は来られない。翌日の朝、海彦がガスで爆死し、小型冷蔵庫が逆さまになっていた。夕方、猪谷老人が私のベルトで絞殺され、部屋の油絵が逆さまに掛けられていた。私は星影龍三に電話し、事件の謎を解いてもらう。
感 想
 物語としてはできているが、今回はトリック、というか謎が単純。星影が10分で謎を解いたというのもわかる気がする。まあ、こういうシンプルなものは嫌いではない。どうしても一点、気にかかるところはあるが、それは野暮というものなのだろう。
備 考


作品名
青い密室
初 出
『宝石』昭和36年5月
粗 筋
 劇団南風座のアパート南風荘の食堂で、演出家兼俳優の樫村勝彦を酔った俳優の信濃冬人が殺そうとナイフを振り上げたところで、俳優の武田ふじ江が連れてきた警官が止めた。信濃が婚約していた俳優の原千里を無理矢理酒を飲ませ、ホテルに連れ込んだからだった。翌朝、管理人の相田が警官に、速達が届いたのにベルを鳴らしても出てこないし、部屋の明かりがついたままで、しかも寝室の窓が開けたままになっていて気になるという話をすると、警官も部屋の前まで来たが、確かに鍵がかかっている。合鍵がないので、窓にはしごをかけて中に入ると、樫村は居間で殺されていた。部屋の鍵は死体のガウンのポケットと、机の引き出しの中にあり、それがすべてであった。樫村は青い光線が好きで、スタンドランプは青い笠で、蛍光灯はブルーだった。アパートに住む五人の俳優には、それぞれ動機があった。
感 想
 密室三部作の一作。条件があまりにも整えられているので、犯人はわかりやすい。逆に言えば、それだけフェアプレイに徹しているといえるのだが、ただの犯人当て小説になっている感は否めない。
備 考


作品名
砂とくらげと
初 出
『宝石』昭和36年10月
粗 筋
 長編の書き下ろしを控えた作家のわたしは、主人の田代氏に招かれ、真鶴の薔薇荘でひと夏を過ごすことになった。以前は大学生の宿舎であったが、今はわたしは長編を依頼された出版社の寮であった。午睡明けのわたしは写真家の今里利平とチェスをしていたが、服飾研究家の吉村徹子と元モデルの木戸つね代が昨日喧嘩したことが気にかかった今里は、海水浴場に行った二人が気がかりで様子を見に行くと、二人が死んでいた。警察が調べたところ、水戸はナイフで刺された後に絞め殺されたのだったが、吉村は波打ち際で水浴していたところを大量の電気くらげに刺され、心臓が弱かったこともあり死んだということであった。ところが海上には三隻の釣船がいて他にボート等は見なかったと証言。さらに庭の方には芝刈りをしていた人が誰も目撃をしていなかった。現場は一種の密室状態だった。
感 想
「薔薇荘殺人事件」から数年後という設定。鮎川哲也から送られた手紙を読んだブラジルにいる星影が、謎を解き明かすという話。星影の手紙にもある通り、鮎川の手紙の描写がちょいと不親切。それを抜きにしても、あまり面白い謎解きではない。
備 考


作品名
茜荘事件
初 出
『私だけが知っている』(早川書房)昭和36年3月
粗 筋
 ゲストが過去に遭遇した迷宮入りの事件を、星影が十五分以内に推理して犯人を指摘するという集会がある。今夜のゲストは、谷崎れい子という女子大生だった。れい子がアルバイトをしていたホテル茜荘に泊まっていたのは、当時は役にありつけなかった後の人気映画俳優の野原進、後に流行歌手となるデビューしたばかりの碧川三郎、人気テレビ女優の石井ちず子、古参芸能記者の神田栄だった。三人はいずれも過去のことで神田に脅迫され、ここに呼び出されていた。その翌日、朝食に神田が出てこず、れい子が部屋に入ると、カーテンが引かれ電気スタンドが点いたついたままだった。そしてベッドに血の跡があった。部屋の中は格闘でもしたかのように滅茶苦茶になっていた。神田はホテルから500mほど離れた草むらで死体となって発見された。
感 想
 NHKテレビの人気推理番組『私だけが知っている』の台本を小説化したもの。三人の証言と現場の状況から、星影が犯人を推理する。まあ、ちょっとした推理クイズのようなものであるし、テレビで解けるようにと易しいものになっている。
備 考
 後に改稿されて、三番館シリーズの短編「棄てられた男」として出ている。

作品名
悪魔の灰
初 出
『私だけが知っている』(早川書房)昭和36年3月
粗 筋
 書生の井上が星影に相談した話。資産家の野田教授は、邸内に研究所を持っており、助手の久保つる子と毎日研究に打ち込んでいた。若い妻のすず子はそれが不満で、夫婦仲は冷たいものだった。子供はなく、教授の異母弟である良彦も一緒に住んでいた。ある日、親友の滝沢医師がレントゲン結果とともに野田教授を訪れ、余命三か月、しかも起きていられるのはあと一か月であると告げた。その頃、すず子はナイトクラブで愛人の高津宏と飲んでいた。帰り際、良彦とつる子が一緒にいるのを見かけた。数日後はすず子の誕生日だった。珍しく野田教授はパーティーをしようといったが、あいにくすず子は音楽界の予定があると告げて外出した。しかしつる子は野田を励まそうとパーティーを開くことを提案。井上と一緒に食べ物や飲み物を買いに行ったが、帰ってきたら研究室だけが明かりがついており、しかも鍵がかかっていた。一つはしず子が持っており、もう一つは鍵穴を覗いてみると机の上に置いてあった。鍵穴を覗くと、教授が死んでいて、その上には灰がたっぷりとかけられていた。教授は拳銃で撃たれており、その拳銃は発見されなかった。
感 想
 NHKテレビの人気推理番組『私だけが知っている』の台本を小説化したもの。密室殺人ものであるが、こちらは犯人こそわかりやすいが、そのトリックは既存のものをアレンジしたものであるが少々難しい。
備 考


作品名
主の絶筆
初 出
『小説宝石』昭和49年8月~9月
粗 筋
 人気脚本家兼小説家の篠崎豪輔は、四年前に軽井沢に大きな家を建てたが、二十近い部屋のうち空いている部屋を作家やジャーナリストに開放した。三食付きでタダということもあり、夏には満杯となる。雑誌編集者の田中は篠崎の原稿をもらいに来たが、助手兼秘書の野川ふみ子が清書した原稿に朱を入れている間、ドライブをすることになった。ところが運転手予定だった挿絵画家の並江千恵子は直前になってキャンセル。結局田中はふみ子の運転でドライブを楽しんだ。帰ってきたて篠崎の部屋をノックするも返事はないし、ドアには鍵がかかっていた。多分昼寝をしているだろうということで待つことにした。しかし夕食になっても降りてこない。女中のお滝がふみ子と一緒にスペアキーで部屋の中に入ると、篠崎はロープで首を絞められ、殺されていた。机の上には、三十一枚目まで朱が入った原稿が残されていた。さらに翌日にも、殺人事件が発生する。
感 想
 タイトルでわかる通り、同タイトルの長編の原型。作者からは、事件の真相を当ててほしいという挑戦状が付されている。それなりに凝った舞台背景の割に謎解きがすぐに終わってしまうので、読んでいてバランスが今一つ。やはり長編化して正解だっただろう。
備 考


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