日本推理サスペンス大賞


【日本推理サスペンス大賞】

 公募による長編推理小説新人賞。日本テレビ主催、新潮社協力。日本テレビが開局35周年を記念して1988年に創設。受賞作は原則として映像化された。短い実施期間ながら、後にサスペンス、スリラーの第一人者となる作家を数多く発掘した功績は大きい。第7回で、日本テレビが降りたことから短い歴史を終えたが、そのコンセプトは、95年に創設された新潮ミステリークラブ賞に受け継がれた。


第1回(1988年)
大賞 受賞作なし
優秀作 乃南アサ『幸福な朝食』  一言でいってしまえば未完成。まだまだ改稿の余地がある作品。文章の途中で視点が切り替わるので、話の流れが唐突に途切れてしまうし、読者のリズムを狂わせてしまう。過去と現代の切替もわかりづらい。何よりも問題なのは、結末までの不透明さ。読者が納得いく不透明さではなく、真相が読者を置き去りにしてぼかされているのだ。題材は魅力的だし、人形使いという設定も物語でうまく活用されている。だからこそ、もっともっと練ってほしかった作品といえよう。
第2回(1989年)
大賞 宮部みゆき『魔術はささやく』  わかりやすいストーリー、高いリーダビリティ、感情移入しやすい登場人物、現実性と意外性のバランス感覚、不条理な今を浮かび上がらせる視線など、その後の宮部みゆき作品に見られる特徴を、本作で既に兼ね備えている。まだ初期の作品だからかも知れないが、生かし切れない登場人物がいたことは少々残念だが、大賞の名に相応しい傑作。
第3回(1990年)
大賞 高村薫『黄金を抱いて飛べ』  確かに銀行襲撃の手段はきめ細やかに描かれているし、舞台となった大阪についてもよく描かれていると思う。人物描写だってキッチリとしている。これが新人の筆によるものだったというのだから、並外れた実力の持ち主だということはわかる。受賞して当然と言えるかもしれない。ただなあ……描き方から作者の底意地の悪さというか、視線の冷たさが滲み出ているように感じるのは気のせいだろうか。
佳作 帚木蓬生『賞の柩』  ノーベル賞を巡る闇と、研究者たちの栄光と苦悩を背景にした医学サスペンス。疑惑の背景そのものや真相も面白いが、津田と恩師清原の娘・紀子との交流、清原と紀子ならびに英国研究者とその母親といった親子の愛情、医学研究者の家族の愛情、さらには紀子自身の成長の記録、ブダペスト、パリ、バルセロナの風景描写や料理等、楽しめる要素満載である。大賞作品よりずっとおもしろい。
第4回(1991年)
大賞 受賞作なし
佳作 御坂真之『ダブルキャスト』 未読
佳作 松浪和夫『エノラゲイ撃墜指令』  原爆投下阻止というスケールの大きな話になるはずなのに、なぜかこじんまりとしているのが不思議。シンプルな方が書きやすいのはわかるんだけど、やはり違和感だらけ。それは思い込みかな。もっと枚数を使い、書くものだという。やはり、題材に比べてあまりにも内容が弱い。それでも疾走感はあるから、佳作に選ばれたのかな。
第5回(1992年)
大賞 有沢創司『ソウルに消ゆ』  実際の出来事をそのまま本筋に組み込むというのはちょっとした違和感があるものの、筆そのものは軽快。現役記者だけあって文章は達者だし、謎の提示も悪くない。日本、韓国、アメリカの裏事情が絡み合う展開もなかなか。読者を惹きこむには十分の素材と、読者を納得させるだけの料理の腕がここにあった。受賞自体は文句なしだろう。とはいえ、不満が多いことも事実。特に作者のご都合主義で物語が進む点が大いに不満。
第6回(1993年)
大賞 受賞作なし
優秀作 天童荒太『孤独の歌声』  主人公たちが自分の心にある暗闇の部分を吐き続けるというのは、後の作品と変わらない。“孤独の歌声”というキーワードは物語でうまく使われていると思う。ただ、なんとなくもやもやしたまま終わってしまうのが残念。闇の部分が強すぎて、物語に悪影響を及ぼしている感がある。登場人物たちの思いが強すぎて、読んでいるほうも疲れてしまう。
第7回(1994年)
大賞 受賞作なし
優秀作 安東能明『死が舞い降りた』  犯人のストーリーが絡むことによって、作者が主張したいことがまったく見えなくなっているのが気になった。人物としての描写がほとんどなく、その周囲を取り巻く人物像がまったく見えてこない。調べた材料を消化するだけで終わってしまった作品である。
佳作 森山清隆『回遊魚の夜』 未読
佳作 吉田直樹『ラスト・イニング』 未読


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