作品名 | 『死者だけが血を流す』 |
初出 | 講談社 1965年2月、書き下ろし |
底本 | 講談社文庫(1975年5月) |
粗筋 | 北国の京都と呼ばれる古い街。牧良一は元常磐会の若い者頭であったが、常磐会がこの古い街に進出した際、パチンコ連合会のお偉方として現れた元市議会議長で伯父の牧喜一郎の姿を見てその席を飛び出し、舎弟だった男に落とし前として殺されかけるも返り討ちにした。その場にいた若手市議で伯父の政敵でもある進藤羚之介に助けられ、正当防衛で無罪になった後は秘書になった。それから六年、県議を経た進藤は国政へ躍り出ることを決意した。しかしその地方の政党枠はすでに埋まっており、進藤は無所属で立候補する。 |
感想 |
『傷痕の街』に続く作者の第二長編。地方における国政選挙をめぐる裏の世界を描き切った作品。もちろんフィクションだが、暴力団や右翼、利権団体など、当時の中選挙区制なら当たり前だったのだろうと思わせる内容である(今の小選挙区でも金が飛び交っているのだろうが)。 結末までの展開は予想できるところだろうけれど、元やくざな割に純粋な主人公の牧良一が動き回るところは、作者が考えるハードボイルドなんだろうと思った。それと解説でもあるが、タイトルがうまい。なぜ死者だけが血を流すのか。そこに考えを巡らせることが、ハードボイルドなのかもしれない。ただ、せっかくの伯父の設定があまり生かされなかったことだけが残念。 |
備考 |
作品名 | 「チャイナタウン・ブルース」 |
初出 | 『推理ストーリー』1965年7月号 |
底本 | 『愛さずにはいられない』三一書房(1967年8月) |
粗筋 | ある密輸事件で左足を失った松葉杖のシップ・チャンドラー(外国籍の船に物資を納める一種のブローカー)、久須見健三は、初めて名前を聞いた天堂号の厨房長より、大量の食糧の注文を受ける。しかも現金払い。ところが一つ条件があった。現金を届ける男を久須見の社員、もしくは人夫ということにしてほしいということだった。 |
感想 |
久須見健三は作者のデビュー長編『傷痕の街』の主人公。どこかで聞いた名前だなと思って、最後でようやく思い出した。まさか久須見の短編が複数あるとは知らなかった。 おいしい話には裏がある、の典型的な話ではあるが、誰も彼もがちゃんと裏をかこうとするところが面白い。伊達に裏街道を知りながら生きていないということだ。 |
備考 |
作品名 | 「淋しがりやのキング」 |
初出 | 『別冊文藝春秋』1967年10月号 |
底本 | 『鉄の棺』ケイブンシャ文庫(1986年1月) |
粗筋 | 付き合いの長いルイーズ号の司厨長のオコーナーから注文を受けた久須見健三は、エドとチコが喧嘩をしているのを見る。チコはかつて、メキシカン・キングという名前のプロレスラーだったが、ひどいアル中になってリングから下り、2年前からボーイとして働いていた。一日置いた土曜日、久須見は荷役を手伝う小頭たちと、外国船の船員なども通う大衆酒場に寄ったら、チコが唖の娼婦にすがっているのを見つけた。 |
感想 | 意外な展開が続く一編。戦争の影が色濃く残っている哀しい作品である。これは傑作。 |
備考 |
作品名 | 「甘い汁」 |
初出 | 『オール讀物』1969年8月号 |
底本 | 『犯人ただいま逃亡中』講談社文庫(1975年2月) |
粗筋 | 小学校を卒業してすぐ社会に飛び込み、40歳で動産不動産合わせて5000万円近い財産を所有することができた。私が信用するのは利益、現金、土地であり、友情、博愛などは必要がなかった。保有するアパートで6か月も部屋代を溜めていた飛田参平は小学校の同級生だったが、そんなことは関係ない。飛田の家財道具を全て取り上げたが、その中にあった小型の金庫には石の塊が詰まっていた。 |
感想 | これはユーモアものに入れた方がいいんじゃないだろうか。主人公が甘すぎるとしか思えない。 |
備考 |
作品名 | 「血が足りない」 |
初出 | 『小説現代』1964年7月号 |
底本 | 『鉄の棺』ケイブンシャ文庫(1986年1月) |
粗筋 | 西部同志会という愚連隊の集まりに所属する19歳のケンは、3年前に仲間と襲った女子高生が生んだ子供をター坊と呼んで一緒に住んでいた。ケンには、拳銃を作ることができる特技があった。そんなケンに、降竜会が目をつける。 |
感想 | アホなチンピラがアホなことをやった、というだけの話にしか思えないし、登場人物のほとんどに嫌悪感しかないのだが、作者は自信作だったとのこと。 |
備考 |
作品名 | 「夜も昼も」 |
初出 | 『女性セブン』1967年7月26日号 |
底本 | 『鉄の棺』ケイブンシャ文庫(1986年1月) |
粗筋 | かつてはスターを次々に生み出してきたが、麻薬におぼれ、冤罪ではあったが麻薬密輸容疑で逮捕されて芸能界から姿を消した浜村耕平が、2年前に北陸でスカウトしたのがジュリイ・青江だった。しかし取ってくる仕事は、目立たないクラブのステージの仕事ばかりであり、売れない青江はどんどん自信を喪失していった。そして浜村と溝ができた青江は、金持ちのドラ息子である久慈の熱意に負け、結婚を承諾し、歌を捨てる決心をした。 |
感想 | 作者の自選集に入っている一編。これもハードボイルドなんだろうか、という疑問はあるけれど、作者の多彩な一面を見せた好作。 |
備考 |
作品名 | 「浪漫渡世」 |
初出 | 『別冊小説現代』1970年4月号 |
底本 | 『危険な女に背を向けろ』旺文社文庫(1983年11月) |
粗筋 | 先輩の押木鋭一郎とスナックで酒を飲んでいた駆け出し作家の来島龍治は、押木から葉村修一の噂話を聞いて、昔を思い出す。来島は私立大学の英文科を低空飛行で卒業するもまともに就職できず、一年後に翻訳書を中心に出している清水書林に入社することができた。来島は、新しく創刊される翻訳雑誌『キヨミズ・ブックス・マガジン』の編集スタッフとなった。そして葉村は編集長だった。 |
感想 | 生島治郎が早川書房で編集者だった頃のことを描いた『浪漫疾風録』の短編版。こちらはオール別名。翻訳ミステリの老舗といえる出版社の当時のことを知れる、面白い短編。 |
備考 |