作品名 | 『幻の殺意』 |
初出 | 角川小説新書(1964年5月) 初出題:『幻影の絆』 |
底本 | 角川文庫(1971年3月) |
粗筋 | 平凡な会社員の田代圭策の悩みは、ここ数週間、高校一年の息子の稔が、学校からの帰宅後にまた外へ出て、帰りが遅いこと。妻の多佳子も理由がわからず、稔に尋ねても何も答えない。それから数日後、九時過ぎに帰宅した圭策を巡査が尋ね、新宿署の捜査係まで来てほしいと告げる。新宿署で圭策は、稔が藤崎清三というヤクザをナイフで殺して逮捕されたと告げられる。稔は何も語らず、家族に会おうとしない。圭策は自ら事件の謎を追うことにした。 |
感想 | 映画化もされた結城昌治の初期の代表作の一つ。主人公こそ一般の社会人ではあるが、事件の謎を一人で追う姿は、一人称視点も含め、ハードボイルドの王道。息子の無実を信じてタフにならざるを得ない父親の姿と、家族に降りかかる不幸な過去は、涙を誘うものがある。ただその点は、海外のハードボイルドとは異なるところ。ハードボイルドの形式に日本の家族を悲劇を落とし込んだ、結城流の実験作といえるだろう。 |
備考 | 1971年の映画化に伴い、改題され文庫化された。 |
作品名 | 「霧が流れた」 |
初出 | 『別冊文藝春秋』1966年4月号 |
底本 | 『死んだ夜明けに』講談社文庫(1979年10月) |
粗筋 | 田原弁護士の紹介状を持って真木のところを訪ねてきた沢本唯行は、今日の夜、宮田という男と社用で会うので、その男を尾行してどういう人物か調べてほしいと依頼した。真木は沢本が嘘をついていることに気付いたが、依頼を受ける。宮田は真木と同様に元刑事で、今は一流だが質の悪い探偵事務所に勤めていた。報告書を出してから約10日後、真木は田代弁護士から沢本唯行の娘が家出をして二か月以上経っているので、唯行の妻と会ってほしいと電話をかけてきた。 |
感想 | 結城ハードボイルドを代表する真木シリーズの一編。依頼を受けた結果、家族の悲劇を掘り起こす結果となるのは他の作品と同様。悲劇を見届ける真木の視線は暗く、何も語ることはない。真木シリーズは完成度が高く、長編も短編もお薦めである。 |
備考 |
作品名 | 「風が過ぎた」 |
初出 | 『オール讀物』1967年3月号 |
底本 | 『死んだ夜明けに』講談社文庫(1979年10月) |
粗筋 | 紹介を受けた窪野弁護士の事務所で、真木は新村浩という建設会社の社員と会い、妻の素行調査の依頼を受けた。新村の出張時、妻の景子はチンピラで別の女のヒモである三崎竜二という男と会っていた。しかし真木は、誰とも会っていないと新村に報告した。しかし1週間後、三崎が殺された。 |
感想 | ちょっと淡白に終わってしまった作品。その気になればまだまだ頁を増やすことができそう。 |
備考 |
作品名 | 「夜が暗いように」 |
初出 | 『別冊文藝春秋』1967年4月号 |
底本 | 『死んだ夜明けに』講談社文庫(1979年10月) |
粗筋 | 真木は磯田弁護士の娘の有希子の後を付けていた。由紀子は母は亡く、父と別居していた。音楽学校の大学院に在学中で、銀座のクラブ・Qでピアノを弾いていた。由紀子は若い弁護士の吉川継雄と付き合っているようだが、その日は食事後、一人で部屋に帰った。調査はそれで終わったが、磯田はもう一日様子を見てほしいと頼んだ。 |
感想 | 一つ調べるごとに、一つ悲しみを掘り起こしてしまう。しかし事件が絡むのであれば、掘り起こすしかない。さらになる悲劇を無くすために。真木シリーズの短編で一番の出来。 |
備考 |
作品名 | 「死んだ依頼人」 |
初出 | 『漫画読本』1962年9月号 |
底本 | 『死体置場は空の下』講談社文庫(1980年8月) |
粗筋 | 腕は悪いが誠実な探偵事務所所長の久里十八がフリーの私立探偵、佐久に頼んだのは、昨日殺害された女性は素行調査の依頼人であり、調査対象の夫には愛人がいることを突き止めているという。その報告書を夫のところへ持っていき、調査費を受け取ってほしいということだった。 |
感想 | A・A・フェアのクール&ラムシリーズを彷彿させるユーモアハードボイルド、佐久&久里シリーズの一編。郷原部長刑事も脇役で登場する。どことなくコミカルだが、さりげなく謎解きを散らばせているところが巧い。 |
備考 |
作品名 | 「遠慮した身代金」 |
初出 | 『漫画読本』1962年10月号 |
底本 | 『死体置場は空の下』講談社文庫(1980年8月) |
粗筋 | 佐久がたまたま久里の事務所を訪れると、そのまま来客の依頼を一緒に聞くことになった。依頼人はパチンコや喫茶店を経営して稼いでいる塩川文造の後妻たか子で、前妻のひとり娘で洋裁学校に通う19歳の玲子が誘拐され、身代金100万円を要求された。しかし文造は金を出さないので、何とか説得してほしいということだった。 |
感想 | さすがにこれは発端を読んだだけで、ある程度の筋が読めるだろう。最後がちょっとした救いか。なるといいな。 |
備考 |
作品名 | 「風の嗚咽」 |
初出 | 『小説サンデー毎日』1986年12月号 |
底本 | 『死者たちの夜』角川文庫(1977年6月) |
粗筋 | 紺野弁護士のところへ、元暴力団組長で今は会社社長の郷田が尋ねてきた。元社員で足を洗った小滝を殺害した容疑で、部下の宇佐原が森戸警部補に逮捕されたので、弁護してほしいという。宇佐原の部屋で、小滝を刺したナイフがベッドの下から発見されたのが決め手だという。しかし宇佐原に接見すると、小滝とは仲もよかったし、殺害された時は女と会っていたアリバイがあると訴える。紺野は宇佐原の弁護を引き受けた。 |
感想 | 紺野弁護士シリーズは初めて読んだ。意外性のあるストーリーは、このシリーズの特徴なんだろうか。紺野という人物は見えなかったが、ストーリーは面白かった。 |
備考 |
作品名 | 「きたない仕事」 |
初出 | 『小説新潮』1978年2月号 |
底本 | 『犯罪者たちの夜』角川文庫(1980年1月) |
粗筋 | 金がなくて事務所を開けない七人の弁護士で借りている部屋に、元警部補で今は総会屋対策をしている白井が訪れた。胃を手術して入院中の同僚三宅の紹介だった。新宿署の児島部長刑事が白井を逮捕しようとしているので、逮捕されたら釈放するように動いてほしいというのだ。依頼金は50万円。高すぎて裏があるのではないかと渋っていたら、その小島が事務所に現れ、児島に任意同行を求めた。児島の部下である元警官の富岡を殺害した容疑で、すでに逮捕状が出ているという。紺野は白井の依頼を受けることにした。 |
感想 | タイトル通り、誰もがきたない仕事に手を染めている。しかし手を染めていない人なんているのだろうか。紺野の気が重くなるのもわかる気がする。 |
備考 |
作品名 | 「すべてを賭けて」 |
初出 | 『小説現代』1968年7月号 |
底本 | 『目撃者』角川文庫(1981年11月) |
粗筋 | 拳銃の暴発事故で警察を辞め、今は興信所で働く佐田は、パクリ屋の小西を探していた。繊維製品の卸問屋である堀部商会の社長堀部利一郎は、荒川のゴルフ場で知り合った三原英子という女に紹介された小西を信用し、総額一億円の手形をそのまま持ち逃げされてしまった。しかし探している途中で会った元同僚の進藤刑事から、小西が殺されたことを知らされる。 |
感想 | ノンシリーズの短編。ハードボイルドというよりはクライムノベルに近い作品だが、金と女が犯罪の原因というのがピッタリくるような作品である。 |
備考 |
作品名 | 「バラの耳飾り」 |
初出 | 『小説新潮』1983年10月号 |
底本 | 『エリ子、十六歳の夏』新潮文庫(1992年2月) |
粗筋 | 十六歳、高校二年のエリ子が夏に家出をした。勉強が好きで、潔癖な子。遊び歩くような子ではなかった。母は美容師を経営、父は雇われ美容師の入り婿で、どちらもなぜか探す気配がない。元刑事の祖父、田代はエリ子の行方を探すため、電話をかけてきた未亡人というあだ名の女の子と会うために新宿を訪れる。未亡人は、エリ子とよく一緒にいた竹内という男が殺されたことを告げた。 |
感想 | 結城昌治最後の傑作(というと怒られるかもしれないが)である連作短編集『エリ子、十六歳の夏』の第一話。このシリーズだけは、是非とも一冊まとめて読んでほしい。この短編だけでは、その真価はわからないだろう。 |
備考 |