日本ハードボイルド全集第6巻(創元推理文庫)
都筑道夫『酔いどれ探偵/二日酔い広場』


【初版】2021年7月22日
【定価】1,500円+税
【編者】北上次郎、日下三蔵、杉江松恋
【エッセイ】「「都筑先生」のこと」香納諒一
【解説】日下三蔵
【粗筋】
 おれか? おれはなにもかも失って、おちぶれはてた私立探偵だ。失うことの出来るものは、もうただひとつしか、残っていない。もうただひとつ、命しか――エド・マクベインの創造した街の探偵カート・キャノン。自らが翻訳を手がけたこの人気シリーズの贋作として出発した渾身の連作『酔いどれ探偵』と、元刑事の私立探偵・久米五郎を主人公に据え、東京の下町で起こる事件を描く『二日酔い広場』。ニューヨークと東京、東西の大都市を舞台にした、都筑道夫を代表するハードボイル二作を合本で贈る。巻末エッセイ=香納諒一/解説=日下三蔵。 (粗筋紹介より引用)

【全体的な感想】
 第6巻は都筑道夫。編者の日下三蔵によると、作者のハードボイルド物の代表作であり、1977年から発表されている西連寺剛シリーズは全作復刊の意向があるとのことで外している。同様の理由でホテル・ディックシリーズも外している。

 『酔いどれ探偵』はエヴァン・ハンター(エド・マクベイン)のカート・キャノンシリーズ(後にカート・キャノン『酔いどれ探偵街を行く』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)とまとめられて刊行)のパスティーシュ。このシリーズは『マンハント』(久保書店)1958年8月号~1959年3月号まで淡路瑛一(都筑道夫)訳で連載されて大きな反響を呼んだ。シリーズ全てが訳されても読者からの要望が途切れなかったため、中田雅久編集長の発案で、エージェントに正式に許可を取り、都筑道夫「続“カート・キャノン”シリーズ《酔いどれひとり街を行く》」として発表された。そのため、初出時には“原題”が添えられている。雑誌掲載時はカート・キャノンとなっていたが、『マンハント』の翻訳エージェントであったチャールズ・E・タトル商会との「本にするときは贋作であることが明確にわかるように配慮する」という契約により、単行本時にはクォート・ギャロンと改められた。
 『酔いどれ探偵』は正統派パスティーシュだが、個人的にはカート・キャノンと比べて行動的なように思える。それに、キャノンに漂っていた哀愁の影も減っている。どことなくスピレインのアクション系ハードボイルドに近づいているように思えるのは、気のせいではないはず。ニューヨークの裏街の描き方も、どことなくぎこちない。
 言っては悪いが、仕事をもらったから書きましたレベル以上の物ではない。作者自身もそこまで乗り気だったとも思えない。

 『二日酔い広場』は西連寺剛に続いて書かれた私立探偵久米五郎シリーズであり、1978-79年に『野性時代』に掲載された。久米五郎は、神田の汚れた四階建てのビルの4Fに組め探偵事務所を開いている。3Fにある西神田法律事務所を開いている兄の長男の(さとる)から時々仕事を得ている。久米は元警視庁捜査一課の刑事であったが、高校三年生の娘と妻を交通事故で亡くし、アルコール中毒になった過去がある。
 こちらについても、テクニックで仕上げました以上の物が感じられない。ハードボイルド作品に漂う作者の影というものが、どこにも見当たらないのだ。解説を読むと、久米五郎は「街を見つめる探偵」とのことだ。それぞれの時代の東京の姿を焼き付けておこうという意図があったと推測している。確かにこの時代の東京という街を切り取ろうとしていることはわからないでもないが、それでも響く物は感じ取れない。
 もちろん、読みごたえがない、というわけではないのだが、この全集に収録されているほかの作者と比べると、訴える力が弱いように感じる。せめて他のシリーズを収録していれば、少しは違ったのかもしれない。


【収録作品】

『酔いどれ探偵』

 底本:新潮文庫(1984年1月)
 1975年1月、桃源社から未刊行作品をまとめた《都筑道夫〈新作〉コレクション》(全五巻)の第四巻『酔いどれひとり街を行く』として刊行。1979年2月、『西洋骨牌探偵術』との合本『気まぐれダブル・エース』のタイトルで桃源社から刊行。1984年1月、『酔いどれ探偵』と改題され集英社文庫より刊行。

作品名 第一章 背中の女
原題 WAKE UP WITH A NAKED DOLL
初出 『マンハント』1960年4月号
粗筋  今日の朝のおれは、いつもと違う柔らかいクッションの長椅子の上パンツ一枚で寝ていた。そして目の前には、裸で縛られている女が椅子に座っていた。女の「あんたがレフティを殺した」という声に驚いて隣の部屋に行くと、私立探偵時代に証言して州刑務所に送り届けたレフティ・シュートが銃で殺されていた。おれは落ちている拳銃を拾い、逃げ出した。
備考  1963年9月に刊行されたカート・キャノン『酔いどれ探偵街を行く』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)に、おまけとして収録。1976年7月に刊行されたハヤカワ・ミステリ文庫版には収録されていない。

作品名 第二章 おれの葬式
原 題 IT'S MY FUNERAL
初出 『マンハント』1960年5月号
粗筋  見知らぬ男が、クォートを捜していた。トニ・マカリスターという美女が、フィアット・アルバルドをクォートが買うという。トニは、かつての妻だった。男に案内させてトニの家に案内させると、確かにトニはいた。その瞬間、クォートは男にブラックジャックで殴られた。
備考  

作品名 第三章 気のきかないキューピット
原題 THE STUPID CUPID
初出 『マンハント』1960年6月号
粗筋  安宿に泊まって二日酔いのクォートの部屋に、生まれ育ったストリートの食料品屋の娘であるキット・オドネルが訪ねてきた。結婚するつもりだったマイク・マクヒュウが、自室から五日も帰っていないので探してほしいという。マイクのバイト先にいた若い男を脅し、隠れ家に案内させると、マイクが殺されていた。
備考  

作品名 第四章 黒い扇の踊り子
原題 CHINESE PUZZLE
初出 『マンハント』1960年7月号
粗筋  クォートのところに、ティエン・リイという女性が訪ねてきた。チャイナタウンで暮らしていたチャーリイ・ルウの部屋で、芸術写真家の白人が殺害された。鍵のかかった部屋に居たのはその白人と、アヘンを飲んで寝ていたチャーリイだけであり、警察に連れていかれたのだが、無実なので助けてほしいという。
備考  

作品名 第五章 女神に抱かれて死ね
原題 MOOSE BY NOOSE WEST
初出 『マンハント』1960年8月号
粗筋  臨時収入が入ったクォートはバーで飲んでいたが、一人の男がボーイフレンドと躍っていた若い女に絡みだした。さらに止めようとした黒人のバーテンはにも殴り掛かる。バーテンは襲い掛かった男の腕を手斧で切り落としてしまった。若い女は逃げたが、ハンドバックを落としていった。拾ったクォートが追いかけようとしたら、ドアのところで赤毛の女と遭遇。若い女はシカゴの金持ちの娘であり、ボーイフレンドとニューヨークに逃げてきた。赤毛の女は、彼女を捜しに来た、シカゴの探偵・ジュリイ・ウエストだった。
備考  

作品名 第六章 ニューヨークの日本人
原題 A JAPANESE IN NEW YORK
初出 『マンハント』1960年9月号
粗筋  ニューヨークの九月、クーパー・スクエアで飲んでいたクォートと大先生のところに、サンタクロースの服を着た男が近づいていた。ふらふらしていた男は倒れてしまったが、大先生は後頭部を殴られていることに気付き、自室に連れてくる。手当てをしたユミオ・オオイズミという日本の貿易会社の社員は今日ニューヨークに着いたばかりであり、飛行場に来た支社の迎えの者に妙なところに連れていかれ、全く覚えていないという。しかし支社に電話をすると、オオイズミは支社に顔を出し、あてがわれた宿舎に帰ったという。
備考  

『二日酔い広場』

 底本:集英社文庫(1984年12月)
 1979年6月、第一話から六話をまとめ、『ハングオーバーTOKYO』(立風書房)として刊行。1984年12月、『二日酔い広場』と改題し、第七話を追加して集英社文庫より刊行。

作品名 第一話 風に振れるぶらんこ
初出 『野性時代』1978年5月号
粗筋  商事会社社長である新見優からの依頼は、妻の智子と兄の猛との浮気調査。しかし尾行の途中で猛にあっさり見つかり、昼過ぎの喫茶店で組に猛は、智子は務めていたころの部下であり、今は週に一度、掃除と選択をしに部屋へ来るだけだと話す。猛の部屋の前で二人は別れたが、猛はすぐに部屋から出てきた。部屋の中で、智子が殺されていた。
備考  

作品名 第二話 鳴らない風鈴
初出 『野性時代』1978年7月号
粗筋  久米は行きつけの飲み屋で若者にいきなり殴られた。若者は久米に尾行されていると誤解していた。夜間学校生だというその若者、小牧洋一は誰が尾行しているかを突き止めてほしいと雇うも、店を出てすぐに銃殺されてしまった。すでに6万円を受け取っていた久米は捜査を開始する。 
備考  

作品名 第三話 巌窟王と馬の脚
初出 『週刊小説』1978年8月4日号
粗筋  かつての時代劇スター、吹雪京之助こと中川余四郎は5日前、拾った行きずりの女をマンションで絞殺してしまったらしい。しかし飲み過ぎではっきり覚えていない。本当に殺したなら自首するが、まだ記事になっていない。警察に行くとカムバックの支障になるから私立探偵に調べてほしい、という依頼を受けた久米はそれらしきマンションに行くも、その部屋には清川という別の男性が住んでいた。久米が後を尾けていくと、清川は巌窟王というスナックのバーテンだった。中川が飲んでいたのは馬の脚というスナックだった。
備考  

作品名 第四話 ハングオーバー・スクエア
初出 『野性時代』1978年9月号
粗筋  久米は尾行相手が歌舞伎町のディスコに入ったため、法律事務所の事務員である桑野未散に助けを請うた。尾行相手は42歳の人妻、柏木倭文子。商社の課長である夫・英俊からの依頼で、息子が高校に落ちてから家庭が荒れるようになり、最近は酒ばかりを飲み、外泊も多くなったので調査してほしいというものだった。倭文子は高校生ぐらいの若者とディスコを出て、ラブホテルに入った。ホテルから出てきて別れた若者を尾行する久米達であったが、電車で家に帰ったはずの倭文子はビルから飛び降りて死んでいた。
備考  初出時タイトル「二日酔い広場」。集英社文庫版で改題。

作品名 第五話 濡れた蜘蛛の巣
初出 『野性時代』1978年11月号
粗筋  60際になる織田要造は、金・土になると遅くまで出かけ、他の日も遅くなることが多くなった。心配した妻の弟からの紹介で久米が尾行したものの、その行動をおかしく感じ、逆に話しかけた。晩婚である織田夫婦の19歳の娘、茜は高校卒業後に勤めてはいるものの、夜遊びが激しい。しかも要造の勤め先に、茜が難波昇という暴走族のリーダーとつき合っているようだが、昇は結婚しているので気を付けろ、という密告の電話がかかってきた。どうも密告者は、茜の同級生で時々遊びに来た服部兼雄のようだ。心配している要造の代わりに、久米が捜査に乗りだす。
備考  

作品名 第六話 落葉の杯
初出 『野性時代』1979年1月号
粗筋  13年前、妻を殺して久米に逮捕された広瀬勝二が、街で見かけた久米に声をかけてきた。今は塗装業を経営しているという。20歳の娘、美津が家を出て男と同棲しているらしいのだが、男の家にいるかどうかもわからないので探してほしいと依頼した。
備考  

作品名 第七話 まだ日が高すぎる
初出 『週刊小説』1981年8月26日号
粗筋  午前一時ごろ、浅草署の本居から久米のところへ、桑野未散が吉原公園で殺されたと電話がかかった。慌てて駆け付けるも、ショルダーバッグや財布などは未散の物だったが、遺体は別人であった。未散の家に電話を掛けると、未散がバッグを盗られたので迎えに来てほしいと午後の十一時に電話があったのだが、十二時半ごろ、迎えに行った兄から待ち合わせ場所にいないと電話があったという。もしかと思って家に帰ると、未散はそこにいた。未散に聞くと、バッグを持ち出したのは高校の同級生で今はトルコ嬢の小室由喜江だという。ところが遺体を見た未散は、由喜江ではない見知らぬ人だと叫んだ。
備考  集英社文庫版に初収録。

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