作 者 |
土屋隆夫(つちや・たかお) 1917年、長野県生まれ。昭和24年『宝石』の検証に「『罪ふかき死』の構図」が入選。33年には長篇第一作の『天狗の面』を刊行。主な長篇『危険な童話』『針の誘い』などで作家の地位を不動のものとする。 (作者紹介より引用)
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作品名 | 『影の告発』 |
初 出 |
『宝石』(宝石社)1962年5月号〜12月号連載。1963年、文藝春秋社より刊行。
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粗 筋 |
満員のデパートのエレベーター内で中年男が毒殺された。名刺と古い写真だけを手がかりにすすめられる捜査。アリバイは完璧だが、東京地検の千草検事はひとりは容疑者にこだわりつづけた。あくまでもアリバイは偽り、と考える千草検事。そこに新たな殺人事件の第一報が……。 (粗筋紹介より引用)
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感 想 |
土屋の代表作。殺人事件が起き、偶然のきっかけから容疑者が一人に絞られる。ところがその容疑者には鉄壁のアリバイがある。最初のうちは捜査が続くため、単なるアリバイ崩し推理小説であるかのように見える。ところが千草たちの丹念な捜査により、事件の背後が見えてくる。各章の冒頭に出てくる日記らしき文章の意味が徐々に分かってくるにつれ、本当の悲劇、本当の怒りが見えてくる。もちろん殺人は許される行為でないが、殺人に至るまでの怒りは読者も共感するだろう。やっぱり戦争はよくない(それだけではないが、犯人の訴えは)。 ただ、個人的な考えとしては、殺人を犯すよりも世間に広く訴えて抹殺した方が、よっぽど大きなダメージを与えられると思うんだけどね。それに二番目の殺人は共感できない。正義の殺人で終わらせようとしない土屋の配慮かも知れないが。また、二番目の殺人のアリバイトリックは、一歩間違えればそのまま犯人と分かってしまうもの。今だったら操作の基本だと思うのだが、この頃は違ったのかな。 呆れ返るくらい鉄壁のアリバイと、それとは比較にならないくらい間抜けなミスがちょっとバランス悪いのだが、協会賞の受賞に相応しい作品である。 |
備 考 |
第16回(1963年)受賞。
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