作 者 |
木々高太郎(きぎ・たかたろう) 1897年、山梨県生まれ。1934年「網膜脈視症」でデビュー。37年に『人生の阿呆』で探偵作家初の直木賞を受賞。1969年没。 |
作品名 | 「新月」 |
初 出 |
『宝石』昭和21年5月号掲載。
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粗 筋 |
24歳の若妻・斐子と湖畔の宿に泊まった55歳の実業家・細田圭之介。斐子に誘われて湖上にボートを漕いだが、心臓弁膜症の持病がある斐子は泳いで溺れてしまい、細田は泳げないためそのまま斐子を溺死させてしまった。しかし斐子のかつての恋人、物集達男がその時の状況を見ていた。そして斐子の父と兄は、これは殺人事件であると弁護士に訴え、慰謝料を求めるよう依頼した。
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感 想 |
木々作品は分かりにくい、というのが常日頃から私が思っていることなのだが、これもその一つ。この作品は、結末が特にわかりづらい。人間性の洞察に謎解きの主眼を置いた作品らしいが、私にはさっぱり読み取れなかった。作者もわかりづらいと思ったのか、続編ともいえる「月蝕」という作品を後に書いている。
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備 考 |
第1回(1948年)短編賞。
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作 者 |
香山滋(かやま・しげる) 1904年、東京生まれ。1947年の「オラン・ペンデクの復讐」以来多彩な作品を発表。『ゴジラ』の原作者でもある。1975年没。 |
作品名 | 「海鰻荘奇談」 |
初 出 | |
粗 筋 |
水産学界の権威かつ水産紹介の社長である塚本博士が20年前、18歳年下で16歳の恵美夫人を見初めたときに建てられたのが、約1万坪のプールと、周囲には同坪数のテラリウムが作られた広大な「海鰻荘」である。恵美が18歳の時に結婚したが、恵美には別れさせられた恋人との間に胤を宿していた。恵美は真耶という女の子を生んだ後、子どもとともにかつての恋人と出奔したが、列車事故で二人とも死に、真耶のみが遺された。そしてプールにはウツボが飼われている。18歳になった真耶は母親そっくりになり、洋画家藤島光太郎の許婚になっている。そしてもう一人、再婚後に生まれた実の息子、13歳の五美雄の誕生会の日、真耶と五美雄が殺された。
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感 想 |
動植物などを彩らせた奇怪なストーリーが魅力だった作者の代表作の一つ。なんにしてもその設定に驚かされ、さらに奇怪な殺人方法とその結末に驚かされる。他の作者だったら、長編化しそうな舞台を惜しげもなく短編に生かし切るところが、読者を魅了したところなのだろう。香山しか描くことのできない、独自の世界である。
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備 考 |
第1回(1948年)新人賞。
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作 者 |
山田風太郎(やまだ・ふうたろう) 1922年、兵庫県生まれ。1947年の「達磨峠の殺人」でデビュー。一連の忍法帖シリーズは空前のブームとなった。2001年没。 |
作品名 | 「眼中の悪魔」 |
初 出 |
『別冊宝石』昭和23年
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粗 筋 |
レビューの踊り子である珠江と恋人になった大学生の橘だったが、珠江は家の窮地を救うため、橘の知人で会社社長の片倉と結婚する。しかし珠江の腹違いの兄・定吉は、今も珠江に金を無心した。橘は嫉妬に狂った片倉の誤解を利用し、定吉を殺させる。
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感 想 |
様々な作品を描いてきた山田風太郎だが、デビュー当初は医学知識を利用した本格推理小説の短編を書いていた。本作もその一つ。人間関係の綾を利用したストーリー自体は面白いが、その陰にある医学的知識を利用した誤解については、正直あまり面白いものではない。
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作品名 | 「虚像淫楽」 |
初 出 |
『旬刊ニュース別冊』昭和23年。新人コンクール参加作品。読者投票第一位。
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粗 筋 |
聖ミカエル病院に駆け込まれてきた患者は、1年前まで勤めていた森弓子。今は結婚し、義弟の酒井卯助に連れられた弓子は、昇汞を8g飲んだと言ったきり黙ってしまう。体には無数のみみず腫れがあった。兄・房太郎を呼びに行った卯助だったが、房太郎も昇汞を飲んで死んでいた。
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感 想 |
不可解な状況の裏に隠された変態的な愛の形。こちらの方が山田風太郎に相応しい作品だと思ってしまうのは私だけだろうか。傑作だと思う。
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備 考 |
第2回(1949年)短編賞受賞。
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作 者 |
大坪砂男(おおつぼ・すなお) 1904年、東京生まれ。佐藤春夫に師事。「天狗」は戦後推理小説界に衝撃を。短篇中心に10年の創作活動だった。1965年没。 |
作品名 | 「私刑(リンチ)」 |
初 出 |
『宝石』昭和24年掲載。
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粗 筋 |
八王子の刑務所を出所した清吉は、三年前の黄金仏紛失事件がもとで、菅原一家の梅吉に襲われたが返り討ちにした。私刑にあうのを恐れ、逃げ回る清吉。再び警察に捕まり、2年の刑期となったが、しつこく脱獄を企て、とうとう10年勤めあげることに。梅吉の仲間である血桜は、今も清吉を狙っていた。
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感 想 |
短編の名手にしてはめずらしく頁数を費やした作品。一人称による独特の筆致は作者らしいが、最後に意外な人情劇が待っている。ただ、好き嫌いを選びそうな作風ではある。
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備 考 |
第3回(1950年)短編賞受賞。
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作 者 |
水谷準(みずたに・じゅん) 1904年、函館生まれ。1923年早大在学中に「好敵手」が懸賞入選。元『新青年』編集長。ゴルフ関連の書も多い。2001年没。 |
作品名 | 「ある決闘」 |
初 出 |
『改造』昭和26年掲載。
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粗 筋 |
愚連隊仲間の八州子をめぐり、ピストルによる決闘を行うことになった白崎と久保田。大館、手塚が立会いの下に行われた決闘で、死んだのは白崎だった。愚連隊仲間は元々用意していた遺書を用いて自殺に見せかけ、その工作は成功したかに見えた。
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感 想 |
短いながらも意外な展開を用意した佳作。ベテランの腕ならではと言える作品だが、なんとなく功労賞という気がしなくもない。
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備 考 |
第5回(1952年)受賞。
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