作 者 |
夏樹静子(なつき・しずこ) 1938年、東京生まれ。慶応大学英文科在学中から作品を発表。結婚で筆を断つが70年に『天使が消えていく』(乱歩賞次席)で再デビュー。女性心理の綾を捉えたサスペンス、社会派推理、本格推理と作品多数。 (作者紹介より引用)
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作品名 | 『蒸発 ある愛の終わり』 |
初 出 |
1972年、光文社カッパノベルスより書き下ろし刊行。
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粗 筋 |
命からがらベトナムから帰国した外信部記者の冬木悟郎は、誰よりも会いたかった人妻、美那子の失踪を知って愕然とする。何故? どこにいる? テレビの蒸発特集を手掛かりに、彼女の郷里・福岡へ飛ぶ冬木。そこで起こった第二の蒸発事件、そして殺人。美那子蒸発の真相とは何か。 (粗筋紹介より引用)
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感 想 |
昭和40年代後半からの、新しい長編推理小説の形。伝統的な謎解きの形を取りながらも、登場人物の心情を深く掘り下げていく。昭和20年代主流の謎解きと、昭和30年代主流の社会派。その双方の持ち味をミックスさせて、長編推理小説の新しい形を作っていったのは、夏樹静子と森村誠一だったといえる。 本書でも、謎解きの魅力は十分に語られている。冒頭から登場する消失トリック。そして二つのアリバイ・トリック。いずれも魅力的な謎である。ただそこにあるのが、「論理的な推理による解決」ではなく、「足で歩いた捜査による解決」であるのが、本格ミステリファンには受け入れられにくいところではないだろうか。 この頃流行った蒸発というキーワードを中心に、幾つかの愛のかたちを登場させていく。やはりこの女性心理の巧みな描写が、この人の持ち味だろう。そして、推理の要素を絡ませていくことにより、一つの作品を生みだしていく。 本書は一部登場人物の行動に無理があること、冬木の妻がほとんど登場しないことなど不満な点もあるのだが、夏樹静子本来のテーマである、女性を主軸としたサスペンスの原点ともいえる作品である。夏樹静子の本格的なスタートは、この作品にあるだろう。 |
備 考 |
第26回(1973年)受賞。
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