日本推理作家協会賞受賞作全集第30巻
『日本探偵作家論』権田萬治



【初版】1996年5月20日
【定価】720円(本体699円)
【解説】中島河太郎
【底本】『日本探偵作家論』権田萬治(悠思社)

【収録作品】
作 者
権田萬治(ごんだ・まんじ)
 1936年、東京生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。1960年『宝石』の第1回評論募集に「感傷の効用」で佳作入選。1973年に最初の評論書『宿命の美学』を刊行。他に『現代推理小説論』『女流名探偵に乾杯!』等。
(作者紹介より引用)
作品名
『日本探偵作家論』
初 出
 1975年12月25日、幻影城評論研究叢書第一巻として幻影城から刊行。1977年11月15日、講談社にて文庫化。1992年6月、悠思社より復刻。一部誤植訂正、最小限の加筆あり。
粗 筋
 作品や文献につぶさにあたって浮き彫りにしていく、戦前に活躍した個性的な探偵作家18人の創作活動。文芸評論としての作家論に新たな視点から挑む野心的冒険によって、過去を振りかえるだけでなく、新しい推理小説の展開をも示唆する、探偵小説ファン必携必読の貴重な論考集。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 取り上げられている作家は以下。
 小酒井不木、江戸川乱歩、甲賀三郎、大下宇陀児、横溝正史、水谷準、葛山二郎、橘外男、山本禾太郎、夢野久作、海野十三、浜尾四郎、渡辺啓助、小栗虫太郎、木々高太郎、大阪圭吉、蒼井雄、蘭郁二郎。他に序説として戦前の探偵小説の特質が、巻末には紀田順一郎との対談が収められている。
 序説で権田は日本の探偵小説の流れを「西欧的な論理に重点を置いた作品」「怪奇幻想の系列に立つ作品」「中間的な作品」でほぼ概括できるが、現実的な社会環境を舞台に犯罪の論理的解明を試みる西欧型の探偵小説とは対照的に、異常な状況設定の下での倒錯した愛や歪んだ欲望を描く猟奇的、幻想的な作品が数多くみられる、と結論付けている。その理由として「論理を貫く論理性よりも、物事を情緒的に理解する心情重視の傾向が強い日本人の非論理的な性格」「絶対主義天皇制という非民主的な国家構造」「日本の近代探偵小説が、谷崎純一郎や佐藤春夫などの芸術至上主義的な傾向の分断作家の影響を強く受けて出発した」ことを挙げ、さらに外的な要因として「日本の戦前の近代探偵小説が短編中心に発展した」ことを挙げている。
 日本でミステリ評論家と言えば、戦後の乱歩を除くと中島河太郎の次にこの人の名前が挙がってくるだろう。それぐらい長く活躍してきた人であるし、実績を残してきた人である。本書は戦前の探偵小説作家18人の創作、社会的背景、探偵小説界にもたらした影響とその後の流れ、(執筆当時の)現在まで読み継がれたor忘れ去られた理由までについての作家・作品論が書かれている。戦前作家で書かれていないのは久生十蘭ぐらいか。まずほとんどが網羅されているといっていいだろう。
 この論考に書かれている内容が、そのままスタンダードになっている箇所が多いところも見逃せない。大下宇陀児の作品が社会派推理小説への流れに続くなどや、甲賀三郎の衰退などにおける推察は非常にわかりやすく鋭いものである。当時としては完全に忘れ去られていた山本禾太郎、大阪圭吉、蒼井雄、蘭郁二郎などについては、『幻影城』に収録された作品群とともにこの評論が見直しの評価につながったのではないかと思えるほどである。
 日本の探偵小説を見直すのであれば、まずは最初に手に取ってほしい一冊である。推理作家協会賞が長編部門、短編部門、評論部門に分かれた年の最初に権田が、この本が選ばれたことは、今までの日本推理小説界の流れを象徴する出来事であり、今までのキャリアに対する推理小説界からの御礼なのでもある。
備 考
 第29回(1976年)評論その他の部門。

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