収録作品

作者 佐瀬稔(させ・みのる)
1932年、横浜生まれ。報知新聞社で運動部長、文化部長などを歴任。昭和48年にフリーとなり、スポーツ、教育、犯罪(特に重大の)などの幅広い分野で、緻密な取材に基づくノンフィクションを手掛ける。1998年没。

(作者紹介より引用)

作品名 『金属バット殺人事件』
初出 1984年11月、草思社より書き下ろし刊行。
粗筋 昭和55年、川崎市の新興住宅地に住む一家を突然襲った惨劇。それは、浪人中の次男が両親を金属バットで殴り殺すという、震撼すべき出来事だった。恵まれた家庭に育った青年が心に宿していたものは何か。丹念な取材と、緻密な構成で事件の全容に迫った力作ノンフィクション。(粗筋紹介より引用)
目次 第一章 発覚
第二章 私刑(リンチ)
第三章 時代
第四章 家出
第五章 浪人
第六章 殺意
第七章 凶行
エピローグ
感想 1980年11月29日未明、神奈川県川崎市で起きた「金属バット殺人事件」を扱ったノンフィクションである。 事件の概要はよく知られているが、本書は丹念な取材によって、家庭内で積み重なっていった緊張や、青年の抱えていた劣等感・孤独感を丁寧に掘り下げている。 事実を淡々と積み重ねる筆致は重く、読後にはやりきれない感情が残る。

ただし、評論その他部門とはいえ、この作品が日本推理作家協会賞を受賞したことには疑問が残る。 ノンフィクションが受賞するのは初めてであり、推理小説的な構造や手法を用いているわけでもない。 選考委員は生島治郎、井上ひさし、仁木悦子、西村京太郎、眉村卓であった。井上ひさしの選評「事件が発生した家庭は果たして特異な家庭であったのか、という謎を究明しながら、現代の家庭の変質をあきらかにしていきます。そして結末は、最良の推理小説よりもさらに衝撃的です」とある。しかし推理小説よりも衝撃的な結末とは思えない。それが協会賞に値するかどうかは読者によって意見が分かれるだろう。

なお、当時の『ミステリマガジン』で新保博久が、 「この作品が受賞するなら、佐木隆三や福田洋、西村望らはどうなるのか」 といった趣旨のコメントをしていた記憶があるが、 佐木らの作品はノンフィクション・ノベルであり、本書は純粋なノンフィクションである。似て非なるものである。 同列に語るのは適切ではない、という指摘には一理ある。

事件そのものの重さと、ノンフィクションとしての完成度は高い。 しかし「協会賞受賞作」として読むと、どうしても違和感が残る一冊である。
備考 第38回(1985年)評論その他の部門。