作 者 |
大下宇陀児(おおした・うだる) 1896年長野県生まれ。大正14年、ほのかなロマンチシズム漂う短篇「金口の巻煙草」で探偵文壇デビュー。犯人や事件当事者の微妙な心理を鮮やかに描写する。『鉄の舌』『蛭川博士』『烙印』、戦後の『虚像』が代表作。1966年没。 (作者紹介より引用)
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作品名 | 『石の下の記録』 |
初 出 |
『宝石』昭和23年12月合併号から昭和25年5月号まで連載。
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粗 筋 |
代議士の息子藤井有吉は、敗戦後の混乱の中で悪友たちと刹那的な享楽に溺れていた。遊ぶカネ欲しさに仲間たちは強盗を犯し、有吉は父親への賄賂の一部を失敬する。有吉が罪悪感に悩んでいるうちに父親が自宅で斬殺され、それぞれが転落への道を辿る。残酷な青春への鎮魂曲。 (粗筋紹介より引用) |
感 想 |
社会派推理小説が流行ったころ、似たような作風だったとして取材に来た記者に対して大下宇陀児は、自らを人間派と呼んでほしいと言ったという。本格でも変格でもないその作風は、後に社会派推理小説を生み出す土壌の一つとなったことは間違いない。そして本書も、そんな人間たちが犯す犯罪とその心理を描き切った一冊である。 本書で一番魅力的なのは、なんといっても笠原昇である。天才で、傲慢な自信家で、女をとっかえひっかえするプレイボーイ。学生高利貸しで、のちに友人たちを部下にミネルバ企業倶楽部という会社まで作ってしまう。時間刻みにスケジュールを立てるところも含め、光クラブの元東大生社長を思い浮かべてしまうのだが、作者自身は光クラブより先に笠原を創造したと語っている。戦後のアバンギャルドな風俗と、退廃的な若者たちの姿を鮮やかに描き出した本作品は、大下ならではの傑作だろう。 |
備 考 |
(第4回(1951年)長編賞。
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