作 者 |
志水辰夫(しみず・たつお) 1936年、高知県生まれ。1981年、『飢えて狼』でデビュー。独特の文体で冒険小説に新風をもたらす。『あっちが上海』『行きずりの街』『こっちが渤海』『いまひとたびの』『情事』など作品世界は多彩。 (作者紹介より引用)
|
作品名 | 『背いて故郷』 |
初 出 | 1985年、講談社より書き下ろしで刊行。 |
粗 筋 |
正体不明の船は、ソ連を見張るスパイ船だった。やとわれ船長だった柏木はその仕事に耐えられなくなり、契約の途中で親友の成瀬と交代する。しかし成瀬は何者かに殺された。船の正体に疑惑を抱いた成瀬は、密かに何かを探っていた。自分が愛する女、優子を奪った親友に対し、自分はいったい何をすることができるのか。柏木を愛する成瀬の妹、早紀子の協力を得ながら、友を殺した敵を追い求める。真相を追い求め、あらゆる感傷を捨て去って男は闘う。港に、そして雪の荒野に次々と訪れる死。そして敵の正体は。
|
感 想 |
1980年代といえば冒険・ハードボイルド小説の隆盛期だったと思うが、本書もそんな時代に書かれた時代を代表する一冊。リアルタイムよりはちょっと遅れてこの作品を読んでいたので、今回は約17年ぶりに読み返したことになる。 あの頃は独特の文体で書かれたシミタツ節に酔いしれ、骨太の物語に感動していたんだけどな。久しぶりに読み返すと、どういうわけか当時の感動は甦らなかった。読んでいる途中で思ったのは、主人公の柏木はこんなに我が儘で自分勝手な人間だっただろかということである。 真相を追い求める姿は格好いいのだが、どうもその動機が納得できない。なんか自己満足というか、自分勝手というか。勝手に動き、周りを不幸にしている。そんなイメージしか浮かんでこなかった。いったい自分の感性はどうなったんだ? 当時の感動は何だったんだ? そこまで自分の読み方が変わってしまったことに呆れながらも、それでも本書が面白い一冊であることに変わりはない。主人公にもやもやした思いを抱きながらも、真相に至るまでの迫力はさすがのものだ。普通の読者だったら、素直にドキドキワクワクするだろう。素直になれない自分はひねくれ者か、ただの偏屈親父か。 作者のタイトルのつけ方が格好いいんだよね。本書しかり、『散る花もあり』『飢えて狼』『尋ねて雪か』など。恋愛小説もいいけれど、もう一度骨太な冒険小説を読みたい。そう思っている。 |
備 考 |
第39回(1986年)長編部門。
|