日本推理作家協会賞受賞作全集第60巻
『87分署グラフィティ―エド・マクベインの世界』直井明



【初版】2003年6月20日
【定価】762円+税
【解説】新保博久
【底本】『87分署グラフィティ―エド・マクベインの世界』(六興出版)に新稿約80ページを加える

【収録作品】
作 者
直井明(なおい・あきら)
 1931年東京生まれ。東京外国語大学インド語科在学中、南達夫名義で「宝石」の懸賞小説に佳作入選。商社に入り、カラチ、ヒューストン、ニューヨークなど海外支店に勤務する傍ら、ミステリーを耽読。とくにエド・マクベインに惹かれ、1984年に研究書『87分署のキャレラ』を刊行。さらに、日本推理作家協会賞『87分署グラフィティ』『87分署シティ・クルーズ』などをまとめる。ほかに『海外ミステリ見聞録』。
(作者紹介より引用)
作品名
『87分署グラフィティ―エド・マクベインの世界』
初 出
 1988年12月、六興出版より書き下ろしで刊行。
粗 筋
 架空の都市アイソラを舞台にした江戸・マクベインの87分署シリーズは、1956年の『警官嫌い』以来、警察小説の代表的作品として読み継がれてきた。そのシリーズを徹底的に分析し、創作の秘密に迫っていく。マクベイン自身よりも87分署に詳しいと言われる、精緻な研究の成果をたっぷりとこの一冊に。第42回日本推理作家協会賞評論その他の部門賞受賞。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 1956年2月にポケット・ブックス社のパーマブック版での第一作『警官嫌い』が出版されて以来、87分署シリーズは警察小説の代表的作品として読み継がれてきた。作者エド・マクベインは、架空の都市アイソラを舞台にしたこのシリーズの中で、プロットの中に時代を示す材料はほんのわずかし書いていない。政治、経済、社会問題や国際情勢に触れず、年代を不明にしたままで、六十年代の出来事とも八十年代のこととも取れるように物語を仕上げている。87分署シリーズは、『警官嫌い』から四十冊目の『魔術』にいたるまで、何年の事件であったと、はっきりと言ったことは一度もない。しかし、何月何日とは書いているので、年代を推定することは可能である。
 著者直井明は、87分署の作品中に記されたわずかな情報から、作品中の事件が起きた年代等を推定するとともに、当時の時代背景、風俗などを紐解き、マクベインの世界に迫っていく。1988年に六興出版から刊行され、第42回日本推理作家協会賞評論賞その他部門賞を受賞。2003年に出版された本書は2003年12月に出版される予定の第52作「Fat Ollie's Book」や最終作予定の「The Frumious Bandersnatch」まで補完した加筆版。エド・マクベインの推薦文付き。
 直井明のマクベイン研究書は『87分署のキャレラ』『87分署グラフィティ』『87分署シティ・クルーズ』の三冊が六興出版より刊行され、さらにマクベイン来日時の『87分署インタビュー』が刊行され、87分署ファンのみならず、ミステリファンからも高い評価を受けた。特に本書は、87分署シリーズを知らなくても十分楽しく読むことができる。もちろんマクベインファンならなおさらだ。
 マクベインよりも87分署に詳しいといわれる作者の研究の成果をたっぷりと詰め込んだこの1冊。ひとつのシリーズに惚れ込むことの素晴らしさをも教えてくれる。
備 考
 第42回(1989年)評論その他の部門。

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