作 者 |
和久峻三(わく・しゅんぞう) 1930年大阪府生まれ。中部日本新聞社の記者から弁護士に。1972年、民事裁判というテーマが斬新な『仮面法廷』で第18回江戸川乱歩賞を受賞。法律推理や経済推理が話題となる。1975年発表の「疑わしきは罰せよ」に登場した、赤かぶ検事こと柊茂のユニークなキャラクターはとりわけ人気を集め、テレビ・ドラマにもなっている。そのほか、猪狩文助、花吹省吾、日下文雄といった弁護士や、京都を舞台にした音川音次郎警部補と、シリーズ・キャラクターものを中心に作品多数。 (作者紹介より引用)
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作品名 | 『雨月荘殺人事件』 |
初 出 |
1988年4月、中央公論社より書き下ろし刊行。函入り2分冊。 |
粗 筋 |
長野の温泉旅館で、資産家女性の死体が発見された。自殺に偽装した殺人だとして夫が逮捕され、裁判が始まる。はたして真相はどこに? 実際に地方裁判所の公判で用いられている関係書類によって、事件の謎解きはすすめられていく。実況検分調書、解剖報告書、証拠写真……。他の類例のない画期的な形式のミステリー。 (粗筋紹介より引用)
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感 想 |
殺人および死体遺棄をめぐる裁判記録ファイルを、元裁判官が講師をつとめる「市民セミナー」の講義に沿って読みすすめる。「市民セミナー」篇「公判調書」篇の2部からなる。噂には聞いていたが、こういう形で作られていたんだ……。とはいえ、本書は一部を調書形式にし、残りは手書きではなく活字で印刷された形の読み物となっている。しかも二分冊ではない。あの形で文庫化するには手間と費用がかかるから仕方のない措置かもしれないが、中公文庫ではきちんと二分冊にしているのだから、できるかぎり近い形で出版して欲しかったな。『アリスの国の殺人』でもイラストが収録されなかったのが不満だった。双葉のこの全集そのものは意義があるものとして高く評価したいが、やはり本の形態なんかもできる限り元版に近づけてほしかったというのが本音だ。 ただ、実際のところは、文庫本一冊の方が読みやすいんじゃないかとも思っているのだが。 肝心な中身の方だが、公判調書ファイルの形にしただけの作品ではなく、最後はミステリとして仕上がっているのがさすがといえる作品。裁判の進行が理解でき、しかも読者を引き込むだけの物語を提供してくれるのは、長年ベストセラー作家として活躍してきた作者だからできることだろう。 ただこの結末、本当の裁判だったらこんな簡単に物事が進むとは思えないけどね。弁護士でもある作者だから、そんなことは十分わかってのこの形なのだろうが。 |
備 考 |
第42回(1989年)長編部門。
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