日本推理作家協会賞受賞作全集第63巻
『夢野久作 迷宮の住人』鶴見俊輔



【初版】2004年6月20日
【定価】524円+税(当時)
【解説】中沢新一
【底本】『鶴見俊輔集・続 3 高野長英・夢野久作』(筑摩書房)

【収録作品】
作 者
鶴見俊輔(つるみ・しゅんすけ)
 1922年東京生まれ。ハーヴァード大学哲学科卒業。京都大学、東京工業大学、同志社大学を経て文筆生活に。1946年、先駆社を設立し、丸山真男らと「思想の科学」を創刊。1951年には「大衆文化研究会」の発足に参加、日本の思想と大衆文化に独創的な論を展開させている。1965年、「べ平連」に参加。反戦平和運動にも取り組んだ。『誤解する権利』『限界芸術論』『戦後日本の大衆文化―1945〜1980年』ほか著書多数。1962年、「思想の科学」に「ドグラ・マグラの世界」を発表、夢野久作再評価のきっかけとなる。
(作者紹介より引用)
作品名
『夢野久作 迷宮の住人』
初 出
『夢野久作―迷宮の住人(シリーズ 民間日本学者)』(リブロポート)1986年6月刊行、書き下ろし
粗 筋
 怪奇幻魔探偵小説『ドグラ・マグラ』で知られる夢野久作は、政客・杉山茂丸の長男として生まれ、二・二六事件の直後、47歳で急逝するまで、「めくらまし」を表現しつづけた。戦争に向かって歩んでいく、昭和初期の世相を背景に捉えられたその実像と作品。独自の人物伝で知られる著者が、異能の探偵作家に肉迫する。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 評論家として活動している鶴見俊輔が、中山茂と松本健一とともに編集にあたり、リブロポートから刊行された「シリーズ 民間日本学者」の中の一冊として刊行された一冊。鶴見俊輔は元々1962年に「思想の科学」に「ドグラ・マグラの世界」を発表し、夢野久作再評価のきっかけとなったというぐらいだから、夢野久作研究の第一人者なんだろうが、本書はどうも今ひとつ。夢野久作の実子である杉山龍丸の著書からの引用が多く、また他からも色々と引用があり、鶴見自身の視点、思想というものがあまり見られない。
 だが、本書で書きたかったのは、夢野久作という人物像そのものであり、そこに自らの思想を加えるのは趣旨に反すると判断したのではないだろうか。その判断のおかげなのかどうかはわからないが、『ドグラ・マグラ』を初めとする奇々怪々摩訶不思議な小説を書き続けてきた夢野久作という人物を知るには格好の一冊となったような気がする。
 これを読んで、もう一度夢野久作を読んでみたくなった。前回読んだときはまだ大学生で、理解することほとんどできなかったのだが、今度は少しでも夢野久作の世界をつかむことができるだろうか。
備 考
 第43回(1990年)評論その他の部門。

【日本推理作家協会賞受賞作全集(双葉文庫)】に戻る