収録作品

作者 北村薫(きたむら・かおる)
1949年埼玉県生まれ。高校教諭を経て、作家活動にはいる。89年に連作集『空飛ぶ馬』でデビュー、殺人のない、日常の謎の論理的推理で注目される。当初は正体不明の覆面作家だった。主な作品に、『覆面作家は二人いる』『冬のオペラ』『盤上の敵』、時をテーマにした三部作『スキップ』『ターン』『リセット』など。評論やエッセイも多い。

(作者紹介より引用)

作品名 『夜の?』
初出 『夜の?』(東京創元社 創元ミステリ'90)1990年1月刊行、書き下ろし
粗筋 ある夏の夜、酔って遅く帰ってきた姉から、失恋の顛末を聞かされる。付き合っていた彼に送った歌舞伎のチケットが、なぜか恋のライバルに届いていたのだ。いったいどうしてだろう。やっぱり、あの人に謎解きをしてもらうしかないかな。落語家・春桜亭円紫と女性大生の「私」のコンビによる、謎解きの快感たっぷりの連作集。

(粗筋紹介より引用)

感想 「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の?」の三編を収録した、デビュー作『空飛ぶ馬』に続く円紫さんシリーズ第二作の連作短編集。 「日常の謎」派の祖とも言うべき北村薫が、初めて栄冠を得た作品集である。 「鮎川哲也と十三の謎」枠で出版された『空飛ぶ馬』がミステリ界に衝撃を与えてから約20年、 その後「日常の謎」作品は数多く生まれたが、 多くは“突飛な日常の謎”を解くだけで、論理的推理が薄れてきている。 落語の三題噺のような作品が増え、偏屈な読者としては物足りなさを感じることも多い。

久しぶりに北村薫の初期作品を読むと、 この頃はまだ論理的な謎解きがしっかり存在していたことに気づく。 ただし『空飛ぶ馬』ほどの謎解きの鋭さはなく、 「私」や周囲の人物の心理描写、成長物語へと比重が移りつつある過渡期の作品でもある。 それでも十分に面白く、シリーズの魅力がよく出ている。

当時は覆面作家で、作者が男性か女性かもわからなかったが、 今読むと「私」の描写が中年男性の視点であることがよくわかる。 それに気づくようになったのは、自分が年を取った証拠かもしれない。
備考 第44回(1991年)短編および連作短編集部門。