日本推理作家協会賞受賞作全集第69巻
『北米探偵小説論』野崎六助



【初版】2006年6月20日
【定価】1143円+税(当時)
【解説】法月綸太郎
【底本】『北米探偵小説論』(インスクリプト)

【収録作品】
作 者
野崎六助(のざき・ろくすけ)
 1947年東京生まれ。1984年、最初の評論集『幻視するバリケード』を刊行。『空中ブランコに乗る子供たち』『エイリアン・ネイションの子供たち』『大藪春彦伝説』『異常心理小説大全』『謎解き「大菩薩峠」』『超絶ミステリの世界』など、精力的な評論活動の一方、『夕焼け探偵帖』『殺人パラドックス』『風船爆弾を飛ばしそこねた男』『イノチガケ』ほかの小説も執筆。
(作者紹介より引用)
作品名
『北米探偵小説論』
初 出
『北米探偵小説論』(青豹書房)1991年9月刊行、書き下ろし。
粗 筋
 アメリカ探偵小説論のみが、歴史的記述を不可分に要請してきたと思えるのである――年代記の形を取ってアメリカの探偵小説を語り、文学全般をそこに取り込んで、二十世紀の歴史に大きな意味を持つアメリカの希望と悲劇が書かれていく。その視線は、日本の探偵小説の運命にも。かつてない手法によって構築された探偵小説論の大作。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 評論家野崎六助、一世一代のライフワークともいえる探偵小説論。各章がだいたい10年ごとに区切られて語られているのだが、その切り口は政治や文学といった、推理小説とはあまり関係ないと思える方面からのもの。しかしこうして描かれてみると、無縁と思われる世界から照らし出された光によって、当時の推理小説作家が時代背景や精神と密接に関わっていた、もしくは振り回されていたという側面が見えてくる。断定口調なところは気になるが、これだけのページを切り開いていくには仕方のなかった手法であるかもしれない。
 こういう風に年代順に記されると、意外なことに気付かされる。例えばS・S・ヴァン・ダインやアール・デア・ビガーズよりも先にダシェル・ハメットが先に来ることである。ミステリを語るとき、どうしても本格推理小説→ハードボイルドという流れになってしまいがちであり、紹介される順番もヴァン・ダインよりもハメットが後になってしまう。他にも黄金時代を象徴する作家であるエラリー・クイーンと、既に探偵の退場に言及していたT・S・ストリブリングも同じ年代に並んでいるのだ。今更ながら、目から鱗であった。
 本書で特にページを割かれているのは次の3人である。ダシェル・ハメット、S・S・ヴァン・ダイン、そしてエラリー・クイーン。ハードボイルドという小説形式の荒野を切り開いたとされる作家のひとりであるハメット、アメリカ本格推理小説を隆盛させたヴァン・ダイン、そしてアメリカ本格推理小説の黄金時代をもたらし、アンソロジストとしても名を馳せたクイーン。いずれもミステリ史を語る上で欠かせない3人であるからして、ここに記載されるのも当然であろうが、それにしても割かれている分量が多い。偏っていると言っていいかもしれないぐらいだ。そこにまた、作者の思い入れが感じられる。特にヴァン・ダインの過大すぎた当時の評価と、過小すぎる現在の評価に対する思いが、行間から滲み出てくるようだ。
 本書は縮小版ということで、1950年代までしか描かれていない。大変な分量になるかもしれないとは思いながらも、やはり全文収録してほしかったというのが正直なところ。ハードカバーでは手が出ないので、できれば文庫本で完全版を出してくれないだろうか。
備 考
 第45回(1992年)評論その他の部門。
 第一ヴァージョンは青豹書房版で1991年9月刊行。第二ヴァージョンはインスクリプト版で1998年10月刊行。第一ヴァージョンの増補決定版であり、長さは約1.5倍の3000枚となった。本書は第三ヴァージョンであり、第二ヴァージョンからプロローグ、序章、第VII〜第IX章、エピローグ及び書誌を除き、さらに第IV〜VI章でも一部を抜粋している。作者曰く「あまりに元本が長大なため、やむなく文庫化に際し縮冊した。ただし部分的な抜粋であり、おおむね前半部が主体となっている」とある。

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