収録作品

作者 高村薫(たかむら・かおる)
1953年大阪市生まれ。国際基督教大学卒。90年、『黄金を抱いて翔べ』で日本推理サスペンス大賞を受賞してデビュー。93年に『マークスの山』で直木賞を、98年に『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞を、2006年に『新リア王』で親鸞賞を受賞する。長編に『照柿』『神の火』『李歐』『晴子情歌』、短編集に『地を這う虫』、エッセイ集に『半眼訥訥』。

(作者紹介より引用)

作品名 『リヴィエラを撃て』
初出 1992年10月、新潮社より書き下ろし刊行。
粗筋 ジャック・モーガンが捕まった。《リヴィエラ》に殺される! 悲痛な110番通報ののち発見された、IRA(アイルランド共和国軍)の元テロリスト・モーガンの死体が、時の歯車を逆回転させる。亡命中国人の爆死、パリで射殺されたIRAのテロリスト、ロンドンの暗殺事件……。MI5が、MI6が、CIAが、謎の東洋人スパイ《リヴィエラ》に踊らされる。

(上巻粗筋より引用)

父を《リヴィエラ》に殺された、IRAの元テロリストのジャック。その東洋人スパイを、CIAの《伝書鳩》とともに追っていくが、諜報戦の虚々実々の駆け引きのなか、命を落とす。彼亡きあと、大きな鍵を握るピアニストが動き出した。東京での彼のコンサートに、あの《リヴィエラ》が現れる? 権謀術数渦巻くスパイの世界を、空前のスケールで緻密に描く。

(下巻粗筋より引用)

感想 日本推理作家協会賞だけでなく、日本冒険小説協会大賞も受賞した、高村薫の代表作の一つ。 MI5、MI6、スコットランド・ヤード、CIA、IRA、中国、そして日本―― 国家間の思惑、探り合い、主導権争い、「正義」。 歴史の中で歯車として生きながらも、自己主張しようとする人間たちの姿が描かれる。

高村薫が描こうとしたのは、 「国家の前では人は無力である」という冷徹な現実なのか、 それとも「無力でもあがこうとする人間の姿」なのか。 いずれにせよ、骨太のストーリーと重厚な文章が圧倒的な世界を構築している。

登場人物は多くないが、それぞれが抱えるものは重く、 特に破滅へ向かうと知りながら突き進むジャック・モーガンと 恋人リーアンの悲恋はあまりにも残酷で胸を打つ。

世界の歯車はきしみながら回り続け、 歯車を構成する人々は主張しながらも結局は歯車でしかない。 世界を動かしていると思い込んでいても、 実際には巨大な構造の一部にすぎない―― その無情さを圧倒的スケールで描いた作品である。

「女性が書いたとは思えない」と評されることもあるが、 むしろ徹底したリアリズムの追求こそ、 高村薫という作家の強さであり魅力なのだと思う。
備考 第46回(1993年)長編部門。