作 者 |
永瀬三吾(ながせ・さんご) 1902年、東京生まれ。戦後、中国から引き揚げて1947年より捜索を発表。専門雑誌『宝石』の編集長もつとめる。1990年没。 |
作品名 | 「売国奴」 |
初 出 |
『宝石』昭和29年12月号掲載。
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粗 筋 |
戦争末期の天津市で、親日系新聞「振報」社長がホテルで、「国権報」社長が自宅で、いずれも国辱記念日(5月3日)に拳銃で殺された。日本政府は、蒋介石が率いるテロ団藍衣社の犯行と断定した。しかし数年後、国策会社の一つである華北殖産股?有限公司の里宮良介は、事件の調査を始めた。その背景には、第二次新日本政府自立の運動が隠されていた。
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感 想 |
スパイ小説の先駆的作品であり、直木賞候補にも挙げられた作品。この手の作品は、今読むとどうしても古びてしまうのは仕方が無い。宝石編集長へのご褒美という気がしなくもない。
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備 考 |
第8回(1955年)受賞。
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作 者 |
日影丈吉(ひかげ・じょうきち) 1908年、東京生まれ。1949年、「かむなぎうた」で懸賞小説に入選。長篇『内部の真実』ほか作品は多岐多数。1991年没。 |
作品名 | 「狐の鶏」 |
初 出 |
『宝石』昭和30年10月号掲載。
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粗 筋 |
柄葉真次は戦地で流行性脳脊髄膜炎にかかったことから、いつ発狂するかと脅えていた。開墾地で昼寝から起きた真次は、一緒に働いていた妻・望が疎林の中で殺されていた。夢で見た場所、そして凶器の斧が一致したことから、真次は自らが記憶の無い状態で望を殺してしまったのではないかと思い込み、死体を隠してしまう。
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感 想 |
主人公の思い込みによる恐怖が、主人公の弱い立場と農村描写の克明さによってより際立って身に迫ってくる。特にエンディングが素晴らしい。この余韻が残るラストこそ、作者の実力を示した者である。
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備 考 |
第9回(1956年)受賞。
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作 者 |
角田喜久雄(つのだ・きくお) 1906年、横須賀市生まれ。中学三年の時に推理小説の処女作を発表。以後、本格・変革ものに自在の筆を揮った。 |
作品名 | 「笛吹けば人が死ぬ」 |
初 出 |
『オール読物』昭和32年9月号掲載。
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粗 筋 |
新聞記者の良輔と警視庁の岡田警部は事件の容疑者を捜査中、容疑者の義妹で花売りの少女・三井絵奈から完全犯罪論を吹きかけられる。犯罪実話作家として知られていた良輔に絵奈は以前から投書していた。「笛を吹けば人が死ぬよ」の言葉に秘められた意味は。
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感 想 |
ベテラン人気作家による、円熟の味と表現してよい作品。プロバビリティーの犯罪を扱った作品だが、絵奈の描写が作品に強いインパクトを与えている。
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備 考 |
第11回(1958年)受賞。
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