作 者 |
山口雅也(やまぐち・まさや) 神奈川県横須賀市生まれ。大学在学中よりミステリー・音楽・映画などの評論を発表。1989年、『生ける屍の死』で作家デビュー。キッド・ピストルズのシリーズほか、独自の舞台設定で展開される論理が特徴。ミステリー関係のグッズ・コレクターとしても知られ、エッセイに『ミステリー倶楽部へ行こう』など。 (作者紹介より引用)
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作品名 | 『日本殺人事件』 |
初 出 | 『日本殺人事件』(角川書店)1994年9月刊行、書き下ろし。 |
粗 筋 |
継母の母国で私立探偵をせんと、日本の地を踏んだ東京茶夢ことサム。トリイ・ゲートが港で待ち受け、リキシャが走り、サムライが歩くカンノン・シティで早速、難事件に出くわした。不可解なセップク、<ワビの密室>の死、クルワ島でのオイラン見立て殺人……不思議の国・日本に戸惑う探偵サム。はたして真のサムライになれるか。 (粗筋紹介より引用) 今は亡き継母カズミの母国であり、憧れの国である日本で私立探偵をすべく、アメリカからやって来た東京茶夢ことサム。伯父を訪ねる前に日本に慣れるべく、カンノン・シティの宿屋に泊まり、そこで働くエクボという女性と仲良くなった。その夜、間違えて入った部屋で遭遇したのは、港で知り合った男性の切腹であった。しかし、なぜか男性の死体には首がなかった。「微笑と死と」。 俳人である伯父に誘われ、エクボといっしょに侘び茶に誘われたサムであったが、そこで起きたのは茶室での密室事件。家元の後継問題が事件の動機と思われるが……。「侘びの密室」。 来日時の屋形船で知り合ったサヘイジに誘われ……というより騙され、クルワに足を踏み入れたサム。ミウラ屋でもいちばんの花魁であるアリスガワと一夜を共にすることとなったサムだが、次の朝、隣の部屋で発見したのはアリスガワの死体であった。「不思議の国のアリンス」。 |
感 想 |
サミュエルXという米国人の著作を山口雅也が翻訳……という形で書かれた連作短編集。人力車、侍、鳥居、遊郭などという間違った日本のイメージをそのまま世界観にしてしまい、その舞台ならではの殺人事件が起きてしまうという凝った形の本格ミステリ。山口雅也らしいひねくれ方だが、こういう作品は好きな方だ。ただし、その世界観をどこまで巧みに構築できるかによって、作品の評価は変わってくる。はっきり言ってしまえば、自分に都合のよい設定を構築しているわけであり、それを読者に納得させるだけの腕が必要となる。「微笑と死と」あたりはうまく処理されていると思うが、「侘びの密室」は少々説明不足か。「不思議の国のアリンス」はわりとよくできていると思うし、遊郭ならではの世界観が伝わってくる。 しかし再読してみると、自分に都合がよいように作っているな、という感があるのは否めない。特に「微笑と死と」の動機などを普通に推理するのは困難だろう。もちろん、それを前提に読んで楽しむ作品であるから、それが悪いというつもりはない。 この連作短編集だけだったら巧く仕上がって終わったなと思わせたのだが、続編の方は今一つ。この一作で止めるべきだったね。 |
備 考 |
第48回(1995年)短編および連作短編集部門。
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