作 者 |
桐野夏生(きりの・なつお) 金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞を受賞。1999年の『柔らかな頬』での直木賞以下、『グロテスク』で泉鏡花文学賞、『残虐記』で柴田錬三郎賞、『魂萌え! 』で婦人公論文芸賞受賞、『東京島』で谷崎潤一郎賞、『女神記』で紫式部文学賞受賞、『ナニカアル』で島清恋愛文学賞と読売文学賞など、多彩な作品で受賞を重ねる。2004年『OUT』がMWAのエドガー賞の候補に。 (作者紹介より引用)
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作品名 | 『OUT』 |
初 出 | 1997年7月、講談社より書下ろし刊行。 |
粗 筋 |
心の通わぬ家族に重荷を感じる雅子、姑の介護に倦み疲れたヨシエ、見栄っ張りで借金返済に追われる邦子、夫の裏切りに絶望する美貌の若妻・弥生――深夜の弁当工場でお互い助け合い、黙々と働くパート主婦四人の人生が、ある事件を境に一変する。仲間が殺した夫の死体をバラバラにして捨てた女たちに明日はあるのか。世界中で絶賛を浴びた犯罪小説の金字塔!(上巻粗筋より引用) 雅子が主導し、死体はうまく〈処分〉することができた。だが、鉄壁と思われた主婦仲間のバランスは崩れ、綻びが生じる。やがてブレーキの壊れた自転車が坂道を転がるように第二の死体処理を請け負わざるをえなくなる。毀れてゆく女たちに忍び寄る、邪悪な影。もう元には戻れない――。はたして脱出口は見つかるのか? 最後の一文字まで読む者すべてを圧倒するクライム・ノベルの決定版。(下巻粗筋より引用) |
感 想 |
桐野夏生が日本を代表する作家にのし上がった記念碑的作品。作者紹介にもあるように、この作品の受賞後、直木賞をはじめ様々な賞を受賞する。また2003年には英訳され、翌年にはMWA(アメリカ探偵作家クラブ)のエドガー賞長編賞最終候補作品に日本人で初めてノミネートされた。 あまりにも有名な小説であるが、読むのは初めて。まあ、村野ミロシリーズが好きになれなかったので敬遠していたというのが本当のところ。 主婦たちが抱える日常の悩みなどは、今でも日本でよくみられる姿。外国人労働者の苦悩する姿も同じだろう。悪い言い方だが、日本の底辺でもがく姿には目を背けたくなる現実がある。真面目なようでどこか壊れている雅子、親と子の世話に疲れ果てたヨシエ、借金だらけで男にも逃げられた邦子、夫に裏切られた弥生という4人の主婦の姿が何とも生々しい。しかし、弥生が夫を殺害してしまい、雅子に死体処分を依頼した後の話はまさに底辺からの脱出を目指す、OUTの話に入るとすべてが一変する。さらに社会そのものからアウトされている元殺人犯の佐竹や、街金の十文字などが絡んできて、女たちはさらに壊れてゆく。この壊れ具合に説得力がありすぎて、見事というしかない。 ただ、死体解体シーンのグロテスクさや、佐竹の暴力シーンなどは好きになれない。もちろんこれがあるからこそ、日常からのOUTが余計引き立つことが分かっていてもである。こういうところや、屈折した女性心理のどろどろした部分が、この作者を好きになれないところなんだよな……。 犯罪小説の金字塔という言葉に相応しい名作。ただ、好みがあることは否定できない。 |
備 考 |
第51回(1998年)長編部門。
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